粉川哲夫の「雑日記」

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2024/11/18

シュルームスフィア− 寄稿:ハンク・ブル (Hank Bull)

ハンク・ブル、カナダのストーム・ベイの森で(写真:マイケル・ティペット)
トランプ時代の政治と経済

現在の状況は極めて憂慮すべきものです。米国の新政権が裁判所の独立を廃止し、憲法を破棄し、将来の選挙を取り消して、権力の掌握を確実にする偽の選挙に置き換えようとする可能性が十分にあります。米国は一党独裁国家に変貌するでしょう。

世界の政府は、小さな独裁者クラブ――つまり中国、インド、ロシア、米国――へ向かう一般的な傾向があり、彼らどうしで未来を決めようとするでしょう。現在、これらの国々のあいだで戦争があり、それぞれに自らの覇権(新疆、ウクライナ、ガザ)を推進しようとしている一方、状況が変わる可能性もあります。

短期的には、ロシアがウクライナを占領し、バルト諸国を脅かすでしょう。

実際には、監視インターネットの力を完全に活用できる国は中国と米国の2つしかありません。ヨーロッパはこの能力を開発できなかったのです。ギリシャの経済学者ヤニス・ヴァルファキス (Yanis Varoufakis) は「テクノ封建主義」(Technofeudalism) を予測しています。

イーロン・マスクはトランプより賢く、彼を操り人形のように操るでしょう。

トランプの政策は暴力的で不安定なものになるでしょう。最初の「トランプ・バンプ〔悪気流〕」の後、市場は制御不能なインフレ、社会の混乱、気候災害に反応して後退するでしょう。投資家は恐怖に駆られ、市場は今後2年ほどの内に機能停止するでしょう。

カナダは極めて弱い立場にあります。米国は攻撃的な敵となりました。カナダはインドと中国の信頼を失い、ヨーロッパはもはや強力な支援を提供できません。ロシアと米国は極北の支配権をめぐって争い、北極圏におけるカナダの主権に挑戦するでしょう。カナダはケベック、アルバータ、ブリティッシュコロンビアからの分離主義の圧力によって内部から不安定化するでしょう。政府は次の選挙で極右に転じるでしょう。

トランプの移民政策は失敗するでしょう。南部からの気候変動避難民の流入を止めることは不可能でしょう。1928年にアーノルド・トインビーが予言したことですが、アメリカの真の運命は、イギリス社会の飛び地にとどまらず、スペイン語圏の国としての自然なアイデンティティを獲得することです。おそらく彼は誇張したのでしょうが、そのようなことが起こるかもしれませ。南米の力は増大しつつあります。似たようなことがヨーロッパでも起こるでしょう。

明らかに、中国は米国に代わって世界で最も強力な国になりつつあります。ドルはいつ下落するのか。人民元に取って代わられるのか。中国は間違いなく、現在の米国の不安定さと弱さを最大限利用して、自国の計画を推進するでしょう。が、それにもかかわらず、ドルに代わる現実的な選択肢はなく、ドルは強いままであると考える人がまだたくさんいます。

世界は、私の友人ザイヌブ・ヴェルジー (Zainub Verjiee) が「想像力の危機」〔参照→Art after the Virus: The Politics of Imagination〕と呼ぶものに直面しています。このような時にアーティストが最も重要なのは、想像力こそが私たちの仕事だからです。

想像力の政治

未来を予測するのは困難です。予想と違う結果になることが多いのです。

この基本的な事実を素描しましょう。しばしば「人民」(the people)と呼ばれる一般大衆の行動は、近年、いくつかの驚くべき変化を見せています。2022年の3つの例を挙げます。

(1)ブラジルでは、ボルソナロが投票で敗退し、ルラが復帰しました。これは予想外でした。
(2)米国の中間選挙〔の下院選〕で、民主党が打撃を受けるだろうという誰もが想定していたのに反して、共和党は実際には非常に好成績を収め、長年のどの現政権よも上回り、トランプの選出を否定した人は1人も当選しませんでした。
3)最も驚いたのは中国の人々で、彼らは、自宅のアパートからテレビでワールドカップを観戦し、カタールのスタジアムがマスクを着用せず歓声を上げるファンで混雑しているのを見て、すぐに路上に集まり、中央政府の厳しいコロナ対策に抗議しました。習近平自身もすぐに抑圧的な政策を撤回しました。彼に選択の余地はなかったのです。人々は声を一つにして発言したのです。中国からのこのようなニュースは、実際、前例がないです。

つまり、人々は主体性を失ってはいないのです。彼らは国家によって永遠に押しつぶされたわけではない。最後には人々は再び立ち上がるのです。

こうしたプロセスは、比較的近い将来に加速するでしょう。インターネットのウイルス的即時性により、10億人が同時に同じ考えを持つ可能性が生まれます。突然同じ決定を下し、一致団結して行動し、劇的な社会変革を起こすことができるわけです。
すでに監視国家は情報の流れを制御するのに苦労しています。否定的で幼稚な反応、嘘、疎外は今日大きな脅威となっていますが、常にそうである必要はないのです。 やがて、新しい技術環境が発展し成熟するにつれて、集団意識は新たな洞察に至り、経験から学び、行動を調整してより効率的になるかもしれないのです。これは人工知能におまかせのように聞こえるでしょうか?
確かに、この種の自己変革、つまりエピジェネシス(epigenesis ) 〔後成説〕の能力は、人間とコンピューターの両方に共通しています。私たちは親族であり、お互いから学ぶこともできます。たとえ機械が人間はあまりにも愚かで退屈なので、話しかける価値がないと判断し、代わりに機械同士で会話することに決めたとしても、そして人口減少と気候変動によって人間が世界情勢で果たす役割が小さくなったとしても、比較的十分な惑星の自己管理システムはまだ進化できます。もちろん、その頃には現在の統治体制はすべて消え去っているでしょうが。

現在の段階は「独裁者の最後の抵抗」と呼べるでしょう。今日、少数の精神異常の狂人が世界皇帝の座を勝ち取るために競い合っています。次に起こるのは突然の崩壊です。今度は内部から蛮族が首都を略奪するためにやって来る。帝国は自らを食い尽くします。ジ・エンドです。

あるいは、何らかの形で、その後の混乱から新しい宇宙が生まれる。必ずしもより公正になるわけではないが、少なくとも惑星上の生命の存続を確実にするためによりよく調整されている宇宙です。
すでに承知のように、木々はみな根を通じてコミュニケーションをしており、キノコの根茎は「ミクロ政治」的な惑星ネットワーク――つまり「シュルームスフィア」(shroomsphere) 〔キノコ的領域、菌類領域――むろん「幻覚剤」としてのキノコのサブルチャー領域も含む〕――を形成し、地殻の深部、数キロメートルの深さには、巨大な洞窟を掘り、金脈を生み出すことができる強力なバクテリアなど、膨大な地質生物学的集団が生息しており、これらの微小な生物が地球上のすべての生命のバイオマスの約70%を占めています。
岩石は確かに生きていること、そしてガイア原理は単なる詩的な比喩ではなく明白な事実であることに気づけば、マツタケが森林火災や皆伐〔かいばつ〕などの環境破壊の後にしか成長できないのと同じように、今起こっている災害から非常に貴重な新しい世界が生まれることも想像できるようになります。この新しい世界に人間がいないのであれば、それはそれでいいかもしれません。おそらくそれでいいでしょう。地球は人間がいなければもっと良い状態になるかもしれません。

それまでは、キノコと協和して生きてみてはどうでしょうか。

Hank Bull
https://hankbull.ca




長年の友人ハンク・ブルによる本稿は、11/14の前号のわたしの原文メモ(英語)に対する、彼のリスポンスとして生まれた。キノコや菌類への彼の関心は、今日の北アメリカにおける"シュルーム・カルチャー"、ジョン・ケージのマッシュルーム論、さらには、南方熊楠の問題意識や実践ともつながる面がある。(粉川哲夫)