2024/07/22
午前3時すぎ、蒸し暑い夜気の街を徘徊して帰り、PCをONしたら、ジョー・バイデンが大統領選の候補を断念(ドロップアウト)したニュースが飛び込んできた。やっと、「アメリカの劇場政治」が復活したという思いである。
この一週間、アメリカの劇場政治はもっぱらトランプと共和党制作の判で押したようなメロドラマショウが支配し、それが、みんな手垢にまみれたプロットとドラマトゥルギーで構成されていたので、話題にする気にもならなかった。政治劇場は、対等の演技と演出、そして斬新なハプニングがないと面白くない。
トランプがAR-15ライフルで撃たれた(といっても全く劇的ではない)ハプニングを最高度に利用し、バイデンとしては最低のレベルまで追い込まれた――というメロドラマ的プロットで進行してきたアメリカ政治が、やっとブレヒト的「異化効果」によってつぎのドラマへのスリリングなインターミッションに入った。
トランプ狙撃に関しては、現地時間の今日、批判にさらされているシークレットサービスの釈明が行われる予定だが、バイデンの「ドロップアウト」によってメディア的な劇場効果は薄れるだろう。
トランプの子飼いのマジョリー・テラー・グリーンのようなおバカな陰謀論者は、狙撃がバイデン=民主党、ひいてはオバマ率いる「闇の政府」の陰謀だと唱えるが、陰謀陰謀というのなら、なぜ逆の陰謀も論じないのだろうか?
民主党側の見解では、トランプは、AR-15の弾が耳に当たったのではなく、弾が当たった演説用のプロンプターの破片が当たったにすぎない――それをトランプは、「右耳の上部を銃弾で撃たれ、大量の出血があった」と誇張して宣伝している。が、彼がどんな傷を負ったのかはまだ全く公表されていない。
PS Donald Trump Shooting Analysis: Gunman Outsmarted Secret Service
「やらせ」としてのドロップアウトしかし、ここで言う「逆の陰謀」とはそういう派閥的な牽制ではなく、個人的な老獪さのような陰謀だ。バイデンのディベイトのぶざまな対応だって、「やらせ」だったかもしれないではないか。人間は80もすぎると、いままで平気でやってきたことができなくなる。バイデンは、すでにその兆候を公的な場で何度も見せてきた。
バイデンがそのぶざまさを気にしないはずはない。このへんで「勇退」する方法はないか、とバイデン氏は考える。その最大のチャンスは、トランプとのディベイトで「大失敗」をすることだ。それが成功すれば、2024年の大統領選への候補、さらには現職大統領の仕事への危惧が山火事のようにひろがるだろう。
実際、そのとおりになり、バイデンは、「追い込まれた」。ドラマとしてはあまりに月並みな展開だ。が、陰謀論を盾にするのなら、こういう「陰謀」だって考えられるし、実際に、そういうやり方で「引退」した「賢明」な要人や権力者はいくらでもいる。
ここでちょっと付言すると、アメリカは、冷戦のはての60年代のヒッピーカルチャー、ベトナムでボロボロになった末の「怠惰文化」(ダメ主義)をすっかり忘れ、また、高齢化とコロナのはてのリモートカルチャーもいいかげんにしている。バイデンが「老化」したのなら、そうした「遺産」を動員してボケたまま大統領職をやりぬくことも不可能ではない。しかし、そういう「分子革命」には興味をもたず、大きいことと若いことを至上のものとする醜いアメリカ主義が復活するありさまだ。トランプが言っている「偉大なアメリカ」の時代なんていつどこにあったのか?
いつか来た道ではなくさて、それでは、民主党の大統領候補は誰になるのだろうか? すでにこの一週間、カマラ・ハリス現副大統領に関する記事が急に増えている。しかし、それは、わからない。バイデンの老体化を非難してきた民主党の諸議員は、いまや、思うがままに身贔屓の候補を推薦することができる。引導を渡されたカマラとしては今後、党の大同団結にむかってダッシュするだろうが、内部の敵が言うことを聞くかどうか。実に楽しみではないか。
11月の大統領選まで数ヶ月しかないのに、これでトランプに勝てるのかという不安をいだく諸氏姉もいるだろうが、2016年に大方の予測に反してトランプが大統領になった年の夏、トランプの自信にもかかわらずバイデンが大統領に決まった2020年の夏、そのころにアメリカ政治劇場の状況がどうだったのかを思い出せば、本番はこれからだということがわかる。
ハリウッド映画を見限って政治劇場見物に転向したわたしは、2016年8月3日にこう書いた。
「アメリカの大統領選は、高見の見物をするしかないという点でも、わたしにはハリウッド映画を見るより面白い。」
4年たっても、まだアメリカ政治劇場に執着していたわたしは、2020年8月3日には、こう書いた。
「いよいよバイデンが副大統領候補を決める。果たして誰になりますか。再選の雲行きがあやしいトランプは、その結果次第では、なにかお騒がせトッピクスをあみださなければならない。」まだ、この時点で、カマラ・ハリスは副大統領候補にはなっていなかった。
とにかく、自己引用ついでに、2020年6月24日に書いた、「ショウほど素敵な商売はない」にひっかけて書いた「コロナジョーク」の再参照をうながして、今日は終わりにする。ここでは、バイデン政権の副大統領候補の詮索をやっている。
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