粉川哲夫の「雑日記」

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2024/01/30

トランプの「師匠」 ロイ・コーン

法律的には法廷で勝てる見込みのない裁判でもなんとか切り抜けてしまう権謀術数をトランプに教えたのはロイ・コーン (Roy Cohn, 1927-1986) である。ロイ・コーンとは、ジョゼフ・マッカーシーの相談役として赤狩りを推進した弁護士であり、あのローゼンバーク夫妻を死刑に追いやった張本人である。

ニューヨーク市の複数のマフィアシンジケートのフィクサーとして企業と組合とのあいだを取り持った。1970年代からのトランプとの縁は、彼がジェントリフィケーションの波に乗ってマンハッタンに大規模の建築プロジェクトを実行しようとしたときあたりかららしい。虚偽の賃貸条件を出してアフリカ系アメリカ人の流入を抑えようとして司法省から告発されたときにもコーンはトランプを助けた。ポール・マナフォートやロジャー・ストーンといったトランプファミリーのいわくつきの人物たちをトランプに紹介したのもコーンである。

1986年にロイ・コーンはAIDSで死ぬが、彼の後半生をアル・パパチーノがHBOのテレビシリーズ「Angels in America」で演じ、メリル・ストリープとともに2004年の第10回the 10th Annual Screen Actors Guild Awardsを受賞した。

パチーノの演技→ Angels in America (2003)

そんなわけで、「Where's my Roy Cohn?」(2019) の監督のマット・ティルナウアー (Matt Tyrnauer) が、 「ロイ・コーンが墓のなかから大統領を生み出した」と言ったのは的を得ている。 → 予告編

この問題に関しては、多くの資料があり、枚挙にいとまがない。インスタントに概略をつかむには以下がおすすめだ。

ジム・ジリン(Jim Zirin、弁護士・TVホスト)によるインタヴュー → ロイ・コーンは墓場から大統領執務室を統治しているのか? (Does Roy Cohn Rule The Oval Office From The Grave?)

Democracy Now!のエイミー・グッドマンによるマット・ティルナウアー へのインタヴュー → “Where’s My Roy Cohn?”: Film Explores How Joseph McCarthy’s Ex-Aide Mentored Trump & Roger Stone

ちなみに、「俺のロイ・コーンはどこにいる?」というタイトルは、トランプ政権で司法長官をやったジェフ・セッションズ (Jeff Sessions)がロシア疑惑で辞任することになったときにトランプが言ったというセリフにもとづく――とThe New York Timesでマイケル・J・シュミット (Michael S. Schmidt)が書いてはいるが、真偽のほどはわからない。
参照:Obstruction Inquiry Shows Trump’s Struggle to Keep Grip on Russia Investigation, The New York Times, Michael S. Schmidt, Jan. 4, 2018

いずれにしても、トランプのロイ・コーン・コネクションをたどると、トランプが単なるメディアショウの道化ではないことがわかってくる。が、ひとつの救いはトランプがコーンほどの狂気的な悪の「本気さ」はないことだ。いや、それはいま進みつつある深刻な事態を見誤っているかもしれない。(続く