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ファスト・フォワード

 ニューヨークにはいくつかのフォークロア(民間伝承)がある。〈犯罪都市〉というフォークロア、地下のマンホールには、かつて捨てられたペットが巨大なワニに育って生息しているというフォークロア……。
 が、もっと身近で、リアリティのあるフォークロアは、無一文でこの都市にやってきて、ある日大成功をおさめるという〈ビッグ・サクセス〉というフォークロアだ。
『ファスト・フォワード』は、そんなフォークロアを信じている八人(白人三人と黒人五人)の高校生たちが、オハイオの郊外都市からニューヨークへやってきて、プロのダンス・グループになろうとする物語である。
 斬新なのは、彼や彼らがグループ(その名も、〈Aドベンチャラス・エイト〉jとしての成功をめざす点だ。『フラッシュダンス』(ただし、これはピッツバーグの話)のように、個人的成功を求める話ならいくらでもある。が、この映画の若者たちは、一人ひとりがそれぞれの個性を出しあいながらすぐれたアンサンブルを生み出さなければならないダンス・グループをめざす。これは、仲間同士の助けあいともちがうのである。
 マンハッタンという街は、新参者がその日から市民として生活できるような自由さをもった都市だが、この自由さは、同時に厳しい生存競争を強いもする。
 コンテストを待つあいだこの都市にとどまらなければならない彼らは、街頭でダンスをみせて金をかせぐことを思いつく。が、彼らの成功は、同じような別のグループ(シーザーズ・ギャング)のナワバリを荒らすことになり、ついに両者は、ディスコで対決する。
 その対決が、ナイフやピストルでではなく、ダンスの技を次々に出しあうことによって行なわれるというのは、街中でブレイク・ダンスが盛んなニューヨークにはふさわしい設定だ。アドベンチャラス・エイトは、最後に、ブレイク・ダンスを得意とするシーザーズ・ギャングを、もっと複雑なダンス・テクニックで圧倒することに成功する。そして、さらに大きな成功へ……。
 この映画でも、特に印象に残る女性像に出会った。いまは亡き夫が創立した芸能プロダクションの新社長が、アドベンチャラス・エイトの実力を正しく評価しようとしないことを知るや、それに敢然と闘いをいどむ老未亡人。その一見道化的なふるまいをアイリーン・ワースが魅力的に好演している。監督はシドニー・ポワチエ。
監督=シドニー・ポワチエ/                             ◎85/ 4/ 5『ミセス』




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