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ネバーエンディング・ストーリー
映像の新しい技術として、またテクノロジーと芸術の新しい〈融合〉として、SFX(特殊視覚効果)が注目をあびている。
すでに『スター・ウォーズ』や『ブレードランナー』などのSF映画、『ハウリング』や『遊星からの物体X』などの怪奇映画でおなじみのこの特撮技術は、最近の『ゴーストバスターズ』や『2010年』では、役者の演技よりも重要な(?)映画の要素になっている。
それは、ほとんど思いのままの世界をつくり出せるので、大衆的なファンタジーの表現方法としては非常に効果的であるかにみえる。
しかし、一つだけ決定的なちがいがある。それは、これまでの大衆的なファンタジーは、テレビや活字を通して、いわば視聴者や読者の自発的な努力でつくり出されたのに対して、SFXの映像は、観客の夢をズバリそこに実在させてしまう力をもっている点だ。
SFXの映像にくらべれば、現在のテレビの映像はお粗末だから、ファンタジーを楽しむには、想像力が必要だ。まして本の場合には、読み、そして空想しなければならない。それが、SFXでは、黙って目を見開いているだけでよい。これは、むしろ麻薬の効果に近い。
この点でおもしろいのは、ミヒャエル・エンデの世界的なベストセラー童話を映画化した『ネバーエンディング・ストーリー』だ。ここでもSFXを駆使したファンタジーの世界がふんだんに展開されるのだが、この物語と映画が問題にしているのは、世界からファンタジーが失われ、世界が〈無〉に滅ぼされようとしているという話なのである。
映画は、母親を失ったばかりの孤独な少年が、授業をさぼって「ネバーエンディング・ストーリー」という古本を読むという体裁をとっており、映画に現われる多彩なファンタジーの世界は、彼の空想力の産物である。
しかし、この映画を見る側から考えると、映画の出来がよいために書物への逃避も、たくましい空想力も必要としないSFXは、はたして、ファンタジーの滅亡をくいとめることに役立つのだろうかという気もする。これは、世界中の子供たちの夢を紡いだエンデの本にとっては皮肉ではないか?
監督=ヴォルフガング・ペーターゼン/出演=ノア・ハザウェイ、バレット・オリバー/84年西独◎85/ 3/ 6『共同通信』
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