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一九八三年度外国映画ベストテン

【外国映画ベスト10】①イフゲニア②鉛の時代③サン・ロレンツォの夜④エボリ⑤パッション⑥天国の日々⑦ラグタイム⑧ガープの世界⑨ワイルドスタイル⑩ソフィーの選択
 今年のニューヨークでも映画をみたが、おもしろいと思ったものはほとんど東西ヨーロッパや第三世界の映画だった。アメリカの映画は、全般的に低調であるように思えた。ベスト10のうち上位ファイブにヨーロッパのものを入れたのもそのためである。
 これらは、すべて何らかの政治的なテーマを発見させた点において興味をおこさせた。『イフゲニア』で描かれる情報操作は、『ウォー・ゲーム』のそれよりもすさまじく悲劇的である。『鉛の時代』は、合法の範囲内でせいいっぱいの抵抗を試み、それが行くところまで行ったときに何をやるべきかが両義的にではあるが示唆されており、わたしはそこにアウトノミアの戦略に類似するものを見た。
『サン・ロレンツォの夜』を見ながら、わたしは、日本にも百二十年ぐらいまえまでは国内を二分するような〈内戦〉(民衆同士の独立をかけた闘い)があったことを思い出し、今日の〈無風状態〉は、そうした〈内戦〉に、それを闘った民衆の頭ごしの解決を与えられたことに端を発しているということを思った。
 回想形式だと言えばそれまでだが、『エボリ』は、色々おもしろい部分はあったものの、ナルシシズム的なトーンが好きになれなかった。が、ニューヨークに行ったことがあって、ニューヨークこそ自分たちの本当の故郷だと思っている人物がこの南イタリアの辺境の地に何人もいるというエピソードは、ひどく印象に残った。イタリアにはニューヨークとの変な〈近さ〉がある。
『パッション』はかなりよいと思う。とくに、セックスが労働になってしまっているというテーマが伏在しているのを発見し、ゴダールが依然としてアクチュアルな感覚を失っていないなと思った。
『天国の日々』から『ソフィーの選択』までの順番は、主観的な好みよりもさらに一層恣意的なものである。この五本をみると、一九世紀から現代にいたるアメリカの社会・文化史を軽くなぞることができるが、そうした歴史把握が絵本や紙芝居のそれの域を出ない不満はまぬがれない。ソフィーは、ニューヨークの貧民街のルーミング・ハウスなんかにはよくいる虚言癖的人物であって、その話の大半はウソッパチであるとみてよいのだが、パクラはこれを大マジメに描いてしまった。もっとも、われわれこそがパクラの大虚言にひっかかったのかもしれないが・・・。
『ワイルド・スタイル』は、輸入されないだろうと思っていたら、ニューヨークで封切られてから五カ月後には日本で公開された。マイナー・プロのこの作品に目をつけたのは博報堂と西武らしいが、はたして元をとれたのだろうか? が、もともと元をとる気がないのなら、黒人の都市文化の〈啓蒙〉をもっと腰をすえてやってもらいたい。
『ラグタイム』のコールハウス・ウォーカー・ジュニアのように、自分の車のうえに置かれた糞をとり除かせるのに命をかけるような一徹さを求めるのは無理だろうが、文化に色気を示す企業の文化移入にはあまりに一貫性が欠けているように思える。
【特別演技賞・その理由】
 スコセッシの『キング・オブ・コメディ』が公開されていれば、特別演技賞にはためらうことなくサンドラ・バーンハードを推しただろう。デ・ニーロと組んでジェリー・ルイスを誘拐する偏執狂的な女性を演じた彼女の演技はちょっとしたものだ。
 『フラッシュダンス』でジェニファー・ビールスをひっかけようとしても果たせないヤクザを演じた元ロック・シンガーのリー・ビングは、やや小つぶだが、ファニーな演技で、『ウォー・ゲーム』に端役で出てくるメガネをかけたコンピューター技師とともに、特に印象に残った。

[イフゲニア]監督・脚本=マイケル・カコヤニス/出演=イレーネ・パパス、タチアナ・パパモクスター他/78年ギリシャ[鉛の時代]前出[サン・ロレンツォの夜]監督=パオロ・タヴィアーニ、ビットリオ・タヴィアーニ/出演=オメロ・アントヌッティ、マルガリータ・ロサーノ他/82年伊[エボリ]監督・脚本=フランチェスコ・ロージ/出演=ジャン・マリア・ボロンテ、イレーネ・パパス他/79年伊・仏[パッション]監督・脚本=#ジャン=リュック・ゴダール/出演=イザベル・ユペール、ハンナ・シグラ他/82年スイス・仏[天国の日々]監督・脚本=テレンス・マリック/出演=#リチャード・ギア、サム・シェパード他/78年米[ラグタイム]前出[ガープの世界]監督=ジョージ・ロイ・ヒル/脚本=スティーヴ・テシック/出演=ロビン・ウィリアムズ、グレン・グローズ他/82年米[ワイルドスタイル]前出[ソフィーの選択]前出◎83/12/21『映画芸術』


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