トランプがやっと起訴された
◆ジョン・F・ケネディが暗殺されたとき赤飯を炊いたと書いたのは深沢七郎だったが、トランプの起訴は赤飯ものだ。わたしは米に距離を置いているので、赤飯は食べないが、国家という基本的な「悪」の頂点に君臨し、自分と身内の利得を肥やした人物が失墜するのは喜ばしい。
◆国家による懲罰は、最低限のオモテムキ的「善意」である。国家の顔がそれをも破ったのだから、国家が制裁を加えるのは理の当然だ。アメリカの「民主党」は、そのようなオモテムキとしての「善意」をタテマエにし、「共和党」は、あたかも「脱国家」志向であるかのような姿勢をタテマエとし、自分らの国家を守ろうとする。
◆オモテムキ現象は多様だが、トランプへの懲罰には次回の大統領選挙をめぐる両政権の、そういうタテマエのヘゲモニー闘争がからんでいる。が、劇には闘争が不可欠だ。ところで、期待していたキアヌ・リーブス主演の『ジョン・ウイック:チャプター4』(John Wick: Chapter 4) は、前回にくらべて迫力がないね。スペースの規模を広げすぎている。もっと密室空間がほしい。助演の真田広之がキアヌを圧倒する演技をしているのはすばらしい。
◆したたかなトランプは、起訴が決まりそうになるのを察知すると、3月18日(現地時間)、「わたしは来週の火曜日に逮捕される」「抗議せよ、われわれの国家をとりもどせ」(Protest, take our nation.)とアジり、こっちの方が起訴が期待されている「J6」(2021年1月6日の議事堂攻撃)騒動の再現を願った。
◆しかし、この間に共和党のなかでも「オニモツ」化してきて、マスメディからも見放されつつある彼のアジは、全く効果を発揮せず、トランプが予告した起訴に反対するデモも寂しいものだった。
◆トランプからすると、起訴が実現するとは思っていなかったフシがある。彼は、司法の先手に出て、もう「愚鈍な左翼」ですらもはや信じてはいない「大衆の造反」なるものに期待したのだ。しかし、今回は、司法のほうがウワテだった。
◆メインである「J6」騒乱でではなく、「買春」問題でトランプを追い詰めた。こちらの方が、「大衆」の受けは強いだろう。アメリカでは、まだまだこういうことに目くじらを立てるひとが少なくない。
◆トランプ問題は、アメリカの権力ドラマのプロットのなかでは、もはや「賞味期限」が切れている。わたしは、彼がホワイトハウスを最終的に去った日の様を、故『雑日記』の「トランプ劇場の果に」(2020/01/26)という文章のなかでこう書いた:
法廷に向かうハーヴェイ・ワインシュタイン
◆いよいよ、トランプ劇場のエピローグが始まった。女がらみとはいえ、数多くのハリウッド・スターたちの証言で窮地に立たされたワインシュタインほど惨めなエピローグにはならないだろうが、「世紀の詐欺師」トランプとしては、目下必死で戦略を練っているところだろう。はたして、「破産と重刑」を逃れる道はあるのか?
◆詐欺は、いまや時代のトレンドだが、そのインフラは、カネや肉体であるよりも、デジタル信号である。口先三寸はもうふるいのだ。トランプも、もともとは、デジタル詐欺的な技術を活用して大統領の地位を獲得した。スティーブ・バノンとブラット・パースケールの「功績」である。しかし、その方法を推進できなかった。どちらも腰が座っていなかった。
◆詐欺にも国家側のそれと民間側のそれとがある。そして民間側の詐欺にも、ハッキングを見ればわかるように、国家や民間をオモテムキとする企業的詐欺と国家自体の空気を瞬時抜くかのような詐欺がある。
◆トランプの「被逮捕宣言」ののち、彼が扇動しようとしたデモとは別に、なかなか巧妙なフェイク画像がネット上に流された。これは、詐欺には詐欺をもって対抗しようとするなかなかアップツーデイトな戦略である。ちなみに、トランプは起訴されたが、まだ逮捕はされてはいない。
いずれにしても、トランプ劇場のエピローグは、ハリウッドの「オスカー/アカデーミー賞」の結末よりもはるかに面白いだろう。