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エル・スール −南−/蜂の巣

 世界の映画市場は、依然としてアメリカの支配下にある。その力は圧倒的で、外国映画というとアメリカ映画しかないかのような錯覚を起こさせかねない。
 作品の出来の良さと興行成績とは決して比例しないし、たとえば映画人を通じて後の時代に強い影響をもつ作品が高い興行成績を与えるとは限らない。が、いま日本の興行成績でトップ3を占めているのは、みなアメリカ映画である。この傾向は日本だけのことではなく、ヨーロッパでも映画市場の五〇〜九〇%がアメリカ映画で占められている。
 しかし、最近日本では、別の傾向も出はじめている。アメリカ映画の独走態勢は変わらないのだが、大手の映画館とは別のところでヨーロッパや第三世界のすぐれた現代映画が封切られる傾向が出ているのである。
 今年それが特に目立ったのはスペイン映画においてだった。昨年十一月の第一回スペイン映画祭以来、スペインの−−これまで日本では全く未知だった−−監督たちの作品が二十本近く紹介され、その一部が一般公開されはじめた。
 ビクトル・エリセの『エル・スール −南−』は、前作の『ミツバチのささやき』とともに、スペイン映画の水準の高さをずばり示している。
 フランコ独裁下のもとで職場を追われ、うっせきした日々を田舎で送る一人の男をその娘の目を通じて、さまつな日常的出来事のなかで描いてゆくエリセの手腕は見事というほかはない。空気のにおいや音が直接伝わってくるような映像も驚異的だ。
 マリオ・カムスの『蜂の巣』もすぐれている。マドリードのあるカフェに出入りする人々を生き生きと描くことによって、ファシズム体制下の困難な時代にもしたたかな活力をもち続けるスペインの都市生活をほうふつとさせる。
 惜しむらくは、こうしたすぐれた映画の上映が、たいてい東京だけに限られてしまうことである。
[エル・スール −南−]監督=ビクトル・エリセ/出演=オメロ・アントヌッティ、ソンソレス・アラングーレン他/83年スペイン・仏[蜂の巣]                             ◎85/10/14『共同通信』




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