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自立する女たち

 この二十年間のアメリカ映画のなかで決定的に変わったのは、女性のイメージだろう。その変化は、フェミニズム路線の映画でなくても、はっきりと認められる。
 女性は男にとってチャーミングでセクシーであるというハリウッド映画の神話は、七〇年代になって〈自立する女〉という新しい神話によって色あせてきた。
 七〇年代の〈女権拡張〉の社会的な動向やフェミニズムのインパクトから出てきた〈自立する女〉のイメージは、四〇年代の映画にはすでにあった〈男まさりの女〉のイメージとは異なる。その意味では、フェミニズムの闘士という肩書がつきやすいジェーン・フォンダも、『俺たちに明日はない』(一九六七)でクライドの情婦ボニーを演じたフェイ・ダナウェイも、またサム・ペキンパーの映画ではめずらしく男と対等にはりあう女として登場する『ゲッタウェイ』(一九七二)のアリ・マッグローも、まだ〈男まさりの女〉であるにすぎない。
〈自立する女〉は、男と対等にはりあうというよりも、むしろ男と訣別する。このような女のイメージを広く定着させたのは、?嚮牛・しない女』(一九七八)のジル・クレイバーグだった。浮気をして去って行った夫にも、新しい恋人にも、あいそをつかした女性が、大きな画布をかかえてニューヨークのソーホーの街を風にあおられながら歩いて行く最後のシーンは、安易な映像ながら、男からの訣別と自立にゆれる映画の女性像を象徴している。
 七〇年代以降のアメリカ映画の女性像は、大なり小なり男からの〈訣別〉と〈自立〉のあいだをゆれ動いている。それは、ダイアン・キートンやメリル・ストリープのように、七〇年代にスターダムにのしあがってきた女優が演ずるキャラクターを見ればすぐに理解できるだろう。『ゴッドファーザー』i一九七二)でキートンが演じたマフィアの貞淑な妻と『アニー・ホール』(一九七七)でマザコン的な男を捨てて自分の道に進む女性像とのあいだには限りない隔たりがある。『レッズ』(一九八一)でキートンが演じたルイーズ・ブライアントは、革命家ジョン・リードの恋人であり、男を拒否するわけではないが、男に対してはつねに一定の距離を保っている。『シュート・ザ・ムーン』(一九八一)の彼女の役柄は、成功した作家の夫を軽蔑し、最後には男の世界そのものをあわれむ中年女性である。
『ディア・ハンター』(一九七八)でヴェトナムに出兵した恋人を待つ、つましい女性を演じたメリル・ストリープは『クレイマー、クレイマー』(一九七九)で、仕事中毒の夫と訣別する女を演じたが、『或る上院議員の私生活』(一九七九)の彼女の役は、結婚という制度のなかでの男との出会いよりも、社会派の女性弁護士という能動的な仕事のなかで知りあった上院議員との出会いを愛し、結局は、男の保守性に失望する人妻である。また『恋におちて』(一九八四)では、彼女は、郊外に住むミドル・クラスの中年女性のゆれ動く心をたくみに演じたが、前作の『シルクウッド』(一九八三)では、男好きのするはすっぱな女でしかなかった一人の女が、プルトニウム工場の劣悪な環境で働くうちに、その不当なあつかいに目ざめ、孤立(当然男たちからも)を恐れずに会社と闘い、告発者になってゆくプロセスを見事に演じていた。
 ジーナ・ローランズが『グロリア』(一九八〇)で演じた強い女や、『ブルース・ブラザース』(一九八〇)でアレサ・フランクリンが演じた下町気質のたくましい女は、一見、四〇~五〇年代のアメリカ映画でもなじみの女性像であるかに見える。しかし、彼女らは、もはや男を頼りにはしないという点で、かつてのハリウッド映画の女性像とは決定的に異なるのである。ジョン・アーヴィングのベストセラーを映画化した『ガープの世界』(一九八二)は、まさに「父親なんかいらない」世界であった。
[俺たちに明日はない]監督=アーサー・ペン/脚本=デイヴィッド・ニューマン、ロバート・ベントン/出演=フェイ・ダナウェイ、ウォーレン・ビーティ他/67年米[ゲッタウェイ]監督=サム・ペキンパー/脚本=ウォルター・ヒル/出演=アリ・マッグロー、スティーヴ・マックィーン他/72年米[結婚しない女]前出[ゴッドファーザー]前出[アニー・ホール]監督=ウディ・アレン/脚本=ウディ・アレン、マーシャル・ブリックマン/出演=ダイアン・キートン、ウディ・アレン他/77年米[レッズ]前出[シュート・ザ・ムーン]監督=アラン・パーカー/脚本=ボー・ゴールドマン/出演=ダイアン・キートン、カレン・アレン他/81年米[ディア・ハンター]監督=マイケル・チミノ/出演=メリル・ストリープ、ロバート・デ・ニーロ他/78年米[クレイマー、クレイマー]前出[或る上院議員の私生活]前出[恋におちて]前出[シルクウッド]前出[グロリア]前出[ブルース・ブラザース]監督=ジョン・ランディス/脚本=ジョン・ランディス、ダン・エイクロイド/出演=ジョン・ベルーシ、キャリー・フィッシャー他/80年米[ガープの世界]監督=ジョージ・ロイ・ヒル/脚本=スティーヴ・テシック/出演=ロビン・ウィリアムズ、メアリー・ベス・ハート他/82年米◎85/ 7/12『アサヒグラフ増刊』




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