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2012年11月25日
アメリカの大統領選挙
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アメリカの大統領選に関して、日本のマスメディアは、なぜか醒めきっていた。普通ならオバマかロムニーかを予想するゲーム予測的な話題が飛び交うのに、今回は、そうではなかった。といって、オバマで決まりだとする予測が浸透していたわけではない。そもそも関心がえらく低かったのだ。
反対に現地では、オバマかロムニーかの予測で意見が分かれた。というより、もしオバマが負けたらアメリカの未来はないというような意見もよく聞かれた。選挙後、室謙二が送ってきた同報メールでも、次のように言っている。

投票日前日(月曜)の夜なんか、みんなナーバスになっていました。ロムニーが勝ったらどうしよう、メキシコに行こうかカナダに行こうか、と冗談を言っていたのです。
各州の選挙人獲得では、オバマの大勝です。事前の予想ではオバマとロムニーは拮抗しているということだったし、私たちも相当にあぶないと思っていた。
ところがカリフォルニアの投票場のしまった直後から、各テレビ局はオバマ当確を発表して、そうなるとテレビでは、予想と違ってどうしてこうなったのか、という議論がはじまりました。それはなかなか面白かった。というのは私が7月に出版した岩波新書「非アメリカを生きる」と、関係があるからです。つまり、これは白人アメリカ男性の負けです。女性とマイノリティ(黒人、ラテン系、アジア系)の勝利です。出口調査の数字が明らかにしているように、白人アメリカ男性は多数派ですが、その数と影響力は低下している。それにくらべて女性の力と、マイノリティ(少数派は多数派に向かっている)の勢いは、出口調査の数字となって、歴然とあらわれたのです。

おそらく、こういうところがアメリカのよいところだし、室がアメリカ人になった理由の一つだと思う。が、選挙というものは、民意だけでは決まらない。さもなければ、レーガンもブッシュ親子も大統領にはならなかっただろう。つまり、民のパワーによる面はあるが、それを踏みにじって進むのが国家であり、その国家は、民を越えたロジックで進む側面がある。

それは、多くの場合、エネルギーやテクノロジーの動向である。この二つの方向が定まるときというのがあり、それが定まると容易にはその方向を覆せないのだ。レーガンもブッシュ親子もオバマも、その点では変わらない。かつてクリントンが1993年に当選したとき、彼は湾岸戦争を敢行したジョージ・H・W・ブッシュに対する〝民主主義的〟なオールタナティヴとみなされた。が、彼は、(すでにブッシュに時代から台頭していた)ハイテクをより円滑に推進する大統領として〝適任〟であったらから、その地位を得たのであり、モニカ・ルインスキー・スキャンダルにもかかわらず、その任期をまっとうできたのだった。

では、エネルギーとテクノロジーとの点で、オバマはロムニーより〝適任〟なのか? いまの時代、ハイテクやインターネットのような飛びぬけたテクノロジーはまだ影を潜めている。しかし、エネルギーに関しては、あきらかに新しい方向が見えている。それは、シェール・ガスである。ガスであるから、ここから飛びぬけたテクノロジーや産業が生まれる気配はない。むしろ、化学工業のような保守的なテクノロジーを利する面が強いが、このエネルギーは、アメリカがアラブの石油に依存しないで〝自給自足〟の体制を100年以上つづけられる可能性を持っている。

この点で、ロムニーは、石油と原子力依存の大統領であり、エネルギー政策に関しては新味がなかった。それに対し、オバマは、2012年1月24日の一般教書演説で、シェール・ガスに限定したわけではないが、エネルギーを石油依存から複合的な国内エネルギーへの転換を打ち出した。アメリカのマスメディアでシェール・ガス・キャンペーンが新たに始まるのは、ここからである。

おそらく、エネルギーの比重をシェール・ガスに移す流れは、当面止まらないだろう。これは、世界政治にも大きな影響を及ぼす。もし、カナダやアメリカのシェール・ガスが本格的に流通したら、アラブの政治地図は変わるだろう。イスラエルに対してアメリカはこれまでのような擁護の姿勢はとれなくなるだろう。

シェール・ガスに急激な関心が高まるのは、2000年からであるが、それは、地上から水圧で垂直に3000メートルまで掘り下げる技術(フラッキング fracking、Hydraulic fracturing 水圧破砕のこと)が整備されたからである。シェール・ガスの泥田は、アメリカやカナダだけではなく、世界中にあるが、シェール・ガスの最大の埋蔵量を誇るのは中国だという。ただし、抽出の技術は、アメリカが握っているから、このエネルギーが世界中で普及し、各国がエネルギーの〝自給自足〟体制をとれるかどうかは、アメリカの政治次第となる。またしてもアメリカである。

いずれにしても、当面、エネルギーの重心がガスに移ることは確実で、このトレンドをめぐって政治が変わるはずである。日本の尖閣列島をめぐる情勢変化もこのこととどこかで関係している。尖閣列島付近ではすでに〝東シナ海ガス田〟の存在が知られている。これにアメリカの新しい抽出技術が加われば、ガス田としての効率がぐんと高まるが、その動きは極めて政治的である。

石原慎太郎前東京都都知事と国とのなれ合いパフォーマンスで始まった〝尖閣諸島国有化〟は、そうした動きに遅ればせながら便乗しうようとするものだが、結果的には、逆に、ここから日本のエネルギーのアラブ依存が深まるかもしれない。つまり、すでに高まってしまった海上における日中関係の緊張は、アラビア半島から石油を積んだ船のシーレーン確保を〝自前〟にする口実となるからである。いまはアメリカに頼っているシーレーンの確保は、アメリカがエネルギーの〝自給自足〟を深めるなら、お荷物になる。〝あとは自分でやれ〟というわけで、自衛隊のお仕事になるのである。いや、そうしたい輩がのさばってくるいいチャンスになるのである。おそらく、〝反米〟の石原らはこのへんを読んでいるのだろう。この分では、当分、〝反米〟派が日本では勢力を得ることになる。そういえば、今回のアメリカ大統領選挙へのマスコミの対応が一歩引いていたのも、アメリカとの距離を取ることが今後のトレンドであるいうことを見越したのかもしれない。

ところで、シェール・ガスは、所詮はガスである。当面、この動きが強くなって、反原発も脱原発の動きもどこかに吹き飛んでしまうかもしれないが、エネルギーの浪費を持越し、倍加するという地球破壊の動きは、ますます強まらざるをえない。すでに指摘されているように、全米で1万か所以上あるシェール・ガス田では、破砕に使う水が水源を汚染する問題が出ている。また、地面を3000メートルも掘る結果、地震を誘発するという報告もある。そうだとしたら、世界中でシェール・ガスを掘り出すようになったとき、地球がいまの地震多発地帯にかぎらず地震にみまわれ、遂には、そのあおりで原発も福島のように破壊され・・・という事態も起こりかねない。

高エネルギー依存の生活自体を根底からあらためずに、エネルギーの〝自給自足〟などありえないし、それには、生活のサイズの最小化が必須である。