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2022/08/28

8月の日々

暑い暑いというけれど、わたしは夏ほど好きな季節はない。冷房のある場所は敬遠し、周囲が体温に近いような温度になったときは保冷剤を頬に当てる程度で済む。しかし、そんな夏もそろそろ終わりになりそうだ。深夜徘徊の途中、虫の声を聴くようになった。これ、やなんだなぁ。

AJ (Airwaves Jockey) 電波ジョッキー

虫の鳴き声の周波数は人間の可聴周波数を越えているので、人間はその一部分しか聴いていないことになる。しかし、これは、人間同士でも同じで、可聴周波数の幅は恣意的なのだ。つまり、聴こえたそれぞれ「主観的」な音を勝手に変調して「・・・」と受け止めているにすぎない。

ラジオアートは、電波そのものをあつかうアートであるから、ラジオアートに音はいらない。が、音声としてのラジオから出発した因縁で、最低限は音声に義理立てする必要がある。「ノイズ音」あたりが手っ取り早いが、こちらはノイズ・ミュージックなるものがすでに確立しているので、半端に手を出したくない。が、問題は音ではなくて電磁波の振幅なのだから、何かいい方法はないものか?

これまでのわたしのラジオアート・パフォーマンスは、そういう試行錯誤そのものだったが、この夏、ちょっと吹っ切れた感じに襲われた。それは、最初から人間の聴覚を問題にしないということだった。つまり、「エイリアン」や「ノン・ヒューマン」をオーディエンスとして想定したパフォーマンスにするのである。ただし、わたしは「人間」だし、そういう問題を伝えるのは人間なのだから、最低限は人間の可聴周波数に義理立てしておこう。

7月末から8月の初めにSoundCloudに"radioart AJ Airwaves Jockey"というサイトを作った。自主サイトではなく「借家」にサイトを作ったのは、もう「自分のもの」は持たないようにしようという――年寄臭い発想からではなく、このプラットフォームが、簡単に音ファイルと画像をアップロードできることが、今度の方式に合っていると思ったからである。おかげで、もう86本も音ファイルをアップロードしてしまった。

まえまえから、わたしのラジオアートは、電波を混ぜ・混信させるDJ的な「ジョッキー」だったのだが、これまではそれをアナログのラジオ受信機と送信機でやってきた。今回は、それをSDR (Software-defined Radio)でやることにした。アップしているファイルの音は、長くて60秒しか続かないが、電磁波を直接「感知」する宇宙人やノン・ヒューマンにとっては長すぎるかもしれない。

トランプの余震

いろいろ続きを書きそうな気配で終わった前回後、「最終」の「J6公聴会」とか、公聴会でトランプ批判で活躍した共和党のリズ・チェイニーが故郷ワイオミングでの連邦議会議員予備選でトランプの推す候補に負け、悲しそうな目(もともと)を見せたこととか、

何でも陰謀路線で気を惹くアジネット放送「InfoWars」のアレックス・ジョーンズが、コネチカット州サンディフック小学校で 多数の死傷者を出した銃乱射事件(2012年)は銃規制論者の陰謀だと公言して被害者の遺族から訴えられ、この8月の最終審(10年もかかった)に際し、ジョーンズがうっかり相手側の弁護士にもメール等の証拠書類を送ってしまったことが明らかになったお粗末なエピソードとか、書こうと思えば枚挙にいとまがない。

法廷侮辱罪に問われたスティーブ・バノンはほぼ有罪が確定した。したたかなバノンも、得意の引き伸ばし作戦を展開する余地がなく、法に屈せざるをえなかったが、彼のポッドキャストサイト「War Room」でさんざん悪態をつくネタはたくわえた。しかし、1年ぐらいの臭いメシは食わざるをえなくなりそう。やっこさんのことだから読書三昧にふけるか。

バノンと、トランプの娘婿ジャレッド・クシュナー(いつも「何をかんがえてる?」という表情)とのあいだで主導権争いがあったことは、以前に書いたが、今月出た彼の回想録(みんなよく書くねぇ)『Breaking History』のなかで、クシュナーは、バノンに脅されたことやバノンの悪魔性について暴露しているらしい。

トランプ逮捕への道

書こうとしながら、どうせ一般メディアが大きく報道するだろうと思ってやめたのは、8月8日のFBIのガサ入れだった。トランプの「私宅」というよりも「押しかけ先」の「マー・ア・ラゴ」。トランプによれば、これは、彼の出馬を阻止するための陰謀だそうだが、トランプがホワイトハウスから私物化していた資料のなかに外交機密に関わるものがあり、「スパイ防止法」(Espionage Act)にひっかかる可能性があると司法省が発表すると、「そんな法律は廃棄してしまえ」と公言した共和党員(ランド・ポール/写真左)がいた。ここまで来ても、共和党のトランプ頼みは薄らいではいない。

それどころか、もしトランプが逮捕されるようなことがあったら内乱になりますよ、と本気で思ったり、そういう言い方で反トランプ派のひとびとを脅す輩が多数いる。そうなったら内乱やればいいんじゃないの。むろん、国家のほうは猛反撃をするだろう。国家とはそういうもの。

FBIのガサ入れのあと、親トランプ派のデモがあちこちで展開されたりもした。しかし、現地時間の26日に司法省が発表した追加資料と、司法省の意気込みでは、トランプは、逮捕はまぬがれても、起訴は逃れられそうにない。そうなったら、プーチンに呼んでもらって亡命するか? そういえば、同じ「スパイ防止法」で有罪になってロシアに亡命したエドワード・スノーデンは、ロシアの市民権を申請しているそうだね。このへん、何かありそう。【追記】2022年9月26日、ロシアのプーチン大統領はスノーデンに市民権を付与した。

野次馬のこだわり

アメリカはいい国だ。トランプほど勝手なことをしながら、起訴どまりで逮捕もされずにいられるのだとしたら。わたしは、民主党を支持するわけではない。そもそもこちらはアメリカにとっては「外人」だ。いや、住んでもいないのだから、まったくの野次馬だ。が、国家は、民主党のであれなんであれ、素直に受け入れる気はまったくないので、その国家のさらなる硬直化には野次馬として絶対反対なだけだ。

国家の頂点にいた人物がその国家にさからうというのは、一見、気味がいいかもしれない。が、トランプは、そういう形で国家を「人民」のために解消しようというわけではまったくなく、私物化し、近親者を側近にして、私利私欲を満たそうとしたことがすでに明らかになっている。これは、国家という観念自体の瓦解であり、脱国家の人間としては喜ぶべきことかもしれないが、トランプ支持の果に見えるのは、新たな独裁国家である。