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ラスト・エンペラー

『ラストエンペラー』の日本封切に際し、監督のベルナルド・ベルトルッチは、配給会社の求めに応じてニュース映画シーンの一部を削除した。どこから「圧力」がかかったかは分からないが、『暗殺の森』や『1900年』のベルトルッチを知るファンは大いに失望したはずだ。
 しかし、ものは考えようである。少しぐらいカットされても、この作品の意味深長さは損なわれはしないからである。この映画は、中国最後の「皇帝」゜誾Vの生涯を描きながら、全体としては幻想物語の風情を持っている。「数奇な生涯」をあとから回想すると、みな幻に見えるのかもしれない。
 が、いずれにせよ、全体が幻想的なため、この映画は史実を離れて、観客の自由な想像をかきたてる。事実、一足先に封切られたパリやニューヨークでは、「エンペラー」が日本の「エンペラー」に重ね合わせて見られたらしい。
 日本の天皇は「象徴」になったのだから「皇帝」ではないのだが、フランス語や英語では天皇は依然として「エンペラー」である。
 このあたり、「国際化」を推進中の日本政府としては、今後のことも含めて「エンペラー」に代わる外国語訳を考え、広める必要があるのではないか。
 それにしても、神のようにあがめられた者が、後年、平服を着て市井に暮らし、「ぼくは昔皇帝だったんだよ」と屈託なく語ることができるというのは、幸せなことである。      (幻視人)
監督=ベルナルド・ベルトルッチ/脚本=ベルナルド・ベルトルッチ、マーク・ペプロー/出演=ジョン・ローン、ピーター・オトゥール他/87年伊・英・中国◎88/ 1/26『東京新聞』




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