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一九八四年度外国映画ベストテン

【外国映画ベストテン】①欲望のあいまいな対象②銀河③サン・スーシの女④ジョナスは2000年に25才になる⑤秋のドイツ⑥セブン・ビューティズ⑦LOST LOST LOST⑧カメレオンマン⑨キング・オブ・コメディ⑩フォート・サガン
【ワースト5】①若き勇者たち②D・C・キャブ③ポリスアカデミー④ブレイクダンス⑤インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説
 アメリカ映画がますますダメになり、その代わりその他の国々の映画の多様さで活気づいた年だった。選択肢からははずしたが、フランス新作映画祭、スペイン映画祭、アフリカ映画祭、ドイツ映画大回顧展のなかにも、強く印象に残るフィルムが少なくなかった。従って、ベスト・テンの選択は、ひどく無理な作業を強いた。
 政治性を強く感じ、政治的に触発されたものを上位に置いたが、『フォート・サガン』もなかなか政治的な映画だと思った。全篇に女性の批判的な目が光っており、男って戦争とセックスにしか関心がないアニマルなのネと言っているかのようだ。
『エレンディラ』A『スター80』A『アナザウェイ』も好きな映画だ。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』は、ノーカット版がよい。ウォルター・ヒルはマチズモ志向なので嫌いだったが、『ストリート・オブ・ファイヤー』を見て少し気が変わった。
『カメレオンマン』は、アーヴィング・ハウやスーザン・ソンタグといったユダヤ系の実在の知識人を登場させ、もっともらしいウソを演じさせ、他方で架空のゼイタクなる人物を歴史のなかに登場させてしまうという対照がおもしろいのに、ハウやソンタグのインタヴュー部分が日本語に吹き換えられていた。だから、日本版で評価すれば、この映画はワーストの方に入れなければなるまい。が、それは酷である。腹が立った。
【ワースト5】ハリウッド映画が潜在的にプロパガンダ映画でなかったことは一度としてないが、最近のアメリカ映画はとみに傾向的になっている。大韓航空機事件の直後に反ソ映画が数本企画されたが、『若き勇者たち』もその一本で、五〇年代の〈反共映画〉もマッ青になるくらい露骨にソ連を敵視し、祖国を守ることの尊さを訴える。
 こうした国家主義は、もう少しからめ手からもプロパガンダされ、『D・C・キャブ』や『ポリスアカデミー』などは、人を笑わせながら国家主義を植えつけようというこんたんを秘めている。はじめはどんな既成のワクにもはまらない連中を登場させ、ハチャメチャなドタバタを見せておいて(だから、映画の前半部はどちらも実におもしろい)彼らをちゃんと秩序のなかに収めてしまう。ワシントンD・Cのタクシー会社と国家とをひっかけるなんて見えすいている。そのうえ最後のタイトル・バックの唄でそれを解説してくれるのだから、教育的なことはなはだしい。
『ブレイクダンス』のひどさは、昨年封切られた『ワイルド・スタイル』とくらべてみればひと目でわかる。
『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』は、テレビで出来ないことを映画でやろうとした試みの一つの帰結であり、今後のアメリカ映画の可能的方向を示唆しているが、これだったらわたしはドラッグをやる方がよいと思う。
[欲望のあいまいな対象]前出[銀河]前出[サン・スーシの女]前出[ジョナスは2000年に25才になる]前出[秋のドイツ]前出[セブン・ビューティズ]監督・脚本=リナ・ウェルトミューラー/出演=ジャンカルロ・ジャンニーニ、フェルナンド・レイ他/74年伊[LOST LOST LOST]前出[カメレオンマン]前出[キング・オブ・コメディ]前出[フォート・サガン]監督=アラン・コルノー/出演=ジェラール・ドパルデュー、ソフィー・マルソー他/84年伊[若き勇者たち]前出[D・C・キャブ]監督=ジョエル・シュマッチャー/出演=アダム・ボールドウィン、アイリーン・キャラ他/83年米[ポリスアカデミー]監督=ヒュー・ウィルソン/脚本=ニール・イズラエル、パット・プロフト/出演=スティーヴ・グッテンバーグ、デイヴィッド・グラフ他/84年米[ブレイクダンス]監督=ジョエル・シルバーグ/脚本=アレン・ベボワーズ、デイヴィッド・ズイトー/出演=ルシンダ・ディッキー、シャバ・ドゥー他/84年米[インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説]監督=スティーヴン・スピルバーグ/脚本=ウィラード・ハイク、グロリア・カッツ/出演=ハリソン・フォード、ケート・キャプショー他/84年米◎84/12/16『映画芸術』




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