トランスローカルなウェブへ(番外)[未発表]

注:この原稿は、『マックパワー』の96年9月号のために書
かれたものだが、97年1月号まで続けられるはずだったこの
連載が、編集部の突然の通達で中止されたとき、連載に最終回
らしいシメの要素を加えたかったので、急遽原稿を書き直した。
「実用的な記事を増やすため」というのが、編集長の説明であ
ったが、その後も「実用的」でない記事も少なからず載ってお
り、その説明はいまだに納得がいかない。まあ、Macの雑誌で、
IndyやNeXTのことばかり書くということが土台無理だたのかも
しれない。



  現在わたしは、常用のNeXTdimensionとIndyにPerformer 5210
をイーサネットでつないで使っている。おもしろいことに、最
近は、Indyを使えば使うほどPerformerを使うようになっている。
先月、いまはやりのメモリーの増設をした。5210でも、32Mの
SIMMを2枚入れてやると、INFINI-DでもSTRATA STUDIO Proでも
「一応」(ここの含蓄を理解されたい)問題なく使えるように
なる。
    安いマシーンでも、その特性を使い切るのが好きなわたし
は、この5210にインターウェアのビデオ入力カードも装填し、
AV Macにした。まだLC-PDSカード・スロットが余っているので、
そこにJPEG圧縮・伸張カードを入れようと思っている。
  ビデオ入力カードを入れたのは、MacとIndyとのあいだで
CUSeeMeをするためである。IndyにはInPersonをいうデスクトッ
プ会議ソフトがデフォルトでバンドルされているが、Indy同士
しか使えない。その点、CUSeeMeeは、汎用性がある。但し、
UNIX用のCUSeeMeeは、しばしば雑誌の付録CD-ROMに入っている
が、それはリフレクターであって、それ自体では他からの画像
や音を表示・再生できない。何かうまいソフトがないものかと
思っているとき、『コンピュータ&ネットワークLAN』と言う雑
誌にCUSeeMeeのさまざまな使い方を連載している渡辺健次さん
の記事に出会った。そこでもMacが送り出しと受けのマシーン
に使われていて、UNIXマシーンはもっぱらリフレクターとして
使われていたが、CUSeeMeeのことを知り尽くしているこの人に
聞けば、何か方法があるのではないかと考え、電子メールを出
してみた。記事にアドレスが出ていたのである。
  早速届いた渡辺さんのメールによると、UNIXでCUSeeMeeをや
れるソフトにNVというのがあるという。いや~ぁ、メールとい
うのはありがたい。早速、FTPサイトを探してみたら、Indy用の
ものがちゃんとあった。ただし、このNVは、CUSeeMeeをのせた
他のマシーンと直接つなぐだけでは交信できない。どこかにリ
フレクターを置く必要があるのだ。そこで、NeXTにレフレクタ
ーを置くことにした。
  しかし、この時点で、わたしのNeXTは、愛用のNeXTdimension
 が故障のため、そのハードディスクだけを取りつけたNeXTstation
 turbo colorになっている。画面が16bit(Dimension は32bit)
なのをがまんすれば、いまのところ問題はない。
  ところがである。Macに8ミリビデオのカメラをつなぎ、
CUSeeMeeを立ち上げ、他方、IndyのNVを立ち上げて、付属のデ
ジタルカメラ(これはひどいシロモノ)の画像を送り込んで画
像通信をやってみると、絵のスピードが実に遅い。そして、そ
のうち、画像が突然フリーズしてしまった。
  UNIXには、pingというネット上のホスト間の接続状態をチェ
ックするコマンドがある。これで調べると、リフレクターの
NeXTとMacおよびIndyとのあいだに30~70%のパケットロ
スがある。普通は、0%なのだから、これでは話にならない。
そういえば、少しまえから、IndyとNeXTとのあいだでFTPをす
ると、時間がかかって仕方がなかった。
  pingでロスが発見された場合、通常は、イーサネット・ケー
ブルの物理的な接続に問題があると言われている。わたしは、
ケーブルとして10Base-2を使っているので、BNCコネクターの接
続とターミネータを調べる。一応、問題なさそうである。とす
れば、本体に問題があるということになるが、MacとIndyをそれ
ぞれ単体でNeXTにつないでpingをかけてやると、パケット・ロ
スは0%なのだ。
 ここで、ちょっと話が複雑になるが、Indyのイーサネットのコ
ネクターは10Base-Tである。そのため、わたしは、10Base-Tを
10Base-2に変換するアダプターを付けている。これがおかしい
ということも考えられる。
  いま、インーサネットというと、10Base-Tが普通である。同
軸ケーブルを使った10Base-2の方式ははやらなくなってきてい
る。が、それにもかかわらずわたしが、10Base-2にこだわった
のにはわけがある。要するに既存のケーブルがあったからであ
る。
  IndyとMacが置いてある場所と NeXTの場所とはビルの階が違
うのだが、たまたまこれらの部屋のあいだにテレビ用の同軸ケ
ーブルが敷設されていた。そして、わたしの独断では、このケ
ーブルは、他の部屋にはつながっておらず、イーサネットの回
線として使えると判断したのである。通常、この手のケーブル
は、ビルのなかにある部屋全部につながっているものだが、こ
のケーブルは、独立していたのだ。まあ、イーサネットの同軸
ケーブルはインビーダンスが50オームであるが、テレビの同
軸ケーブルは75オームであるという違いはある。しかし、こ
の際、そんな厳密なことは問題にならないだろう。実際、これ
をイーサネット回線に流用したのは数年前のことだが、この間
何も問題は起きなかった。
  冷静に考えてみると、すべてのネットワーク・トラブルは、
NeXTdimensionをNeXTstation colorに替えてから起こっている。
ひょっとして、後者のイーサネット信号が弱く、サーバーにな
れないというようなことがあるのだろうか? いや、まてよ、
わたしは、いま、NeXTdimensionのハードディスクをNeXTstation
 color上で使っているが、両者は、決して単なる箱ではなく、
まず、物理的なイーサネット・アドレスが違う。NeXTではNetInfo
という統合的なデータベース・システムがすべての機能を基礎
的に管理している。ひょっとして、物理的なイーサネット・ア
ドレスが異なるマシーンに、ハードディスクに格納された別の
NetInfoデータが無理矢理組みあわされて、混乱が起きていると
いることも考えられる。
  そこで、このNetInfoに格納されているネットワーク・データ
のチェックをはじめることになった。いやぁ~、暑いのに大変
だ。物理的なイーサネット・アドレスは、ワークステーション
だけのものではなく、Macのようなパソコンにもちゃんと決まっ
たアドレスがある。が、Macに関しては、マニュアル本のどこを
さがしてもこのことに触れているものがなかったので、これま
では、00:00:00:00:00にしておいた。わからないときには、こ
うしておけばよいということをどこかで読んだ記憶があったか
らである。しかし、今回はそうはいかない。
  わたしは、これまで、一度もアップルコンピュータのテクニ
カルカスタマーズ・センターに電話したことがなかった。別に
訊くこともなかったし、電話がものすごく混んでいると聞いて
いたからである。まあ、Macのいいところは、UNIXやAT互換機な
どにくらべて、そういうところのごやっかいになる率が低くて
済むということではないか。が、今回は、そうはいかない。
  予想通り、さんざんねばったあげく、話のわかる人に電話を
回してもらい、Macの物理的なイーサネット・アドレスの調べ
方を教わる。それによると、通常は、MacTCPを立ち上げ、Option
キーを押しながら、「Ethernet」のところをクリックすると、
その画面に番号が出てくるが、ときにはうまくいかないときも
あるという。そして、そのときは、テクニカルカスタマーズ・
センターにフォーマット済みのフロッピーを送り、GetEtherAddress
 というソフトを入手してほしいという。えらいこっちゃ。
  幸い、わたしの場合は、すんなり、MacTCPの画面に16進の
番号が現れ、一件落着。おそらく、MacTCPを使っていない場合
には、GetEtherAddressを使わなければならないのだろう。
  そんなことをしているうちに、カリフォルニアからDimension 
ボードが届いた。サム・ゴールドバーガーさんとメールで問題
点を検討した結果、NTSC信号を出力するNBICチップが悪いこと
はわかったが、その何十もある足がオートメーションの装置で
半田付けされているので、それをはずして取り替え、きちんと
半田付けするのは至難の技なので、500ドルで現品を交換し
てもらうことにしたのだ。NBICチップだけならば、25ドルだ
とのことだったが、この手の作業で深みにはまり、泣きを見た
ことは幾度もあるので、今回はやめたのである。
  こうして、すべてが、もとにもどった。ネットワークの不具
合もどこかに行ってしまった。CUSeeMeeとNVの通信もうまくい
った。NetInfoの整備をしたためかもしれないし、そうでないか
もしれない。一度こういう問題を徹底的に究明してみたいとい
う欲望にかられもするが、人間の身体と同じ様に、全部すっき
りしてしまうということはありえないのだろう。コンピュータ
もようやくそこまで来たということだ。
  IndyのOS がヴァージョンアップされ、また色々魅力的な機
能が増えたので、それとトランスローカルにリンクさせて使っ
ているMacの使い方も、その分だけ豊かになるはずだ。先週も、
MacでVRMLを簡単に作れるVirtusWebBilderをT-Zone ミナミで買
ってしまったのだが、これで作ったものをIndyに持って行って
バンドルソフトで推敲すると、Indy用の100倍以上の価格の
専用ソフトでなければ出来ないことをある程度まで実現できる
のである。
  だから、わたしの場合は、いまやMacとIndyとがセットになっ
ており、Macを新調するときは、同時にIndyを新調しなければな
らないだろう。