『マックパワー』1996年6月号
HotJavaについて書こうと思い、苦労して作ったたJava言語の ファイルをMacJDK1.0b1でコンパイルし、やっとのことでいくつ かアプレットを作るという時代錯誤の努力をくりかえしている うちに、とうとうシメキリが来てしまった。 時代錯誤というのは、この時点で、すでにプログラム不要の Javaオーサリング・ツールが登場しはじめたからである。SGI が開発したCosmo Createは、その最もすぐれたものの一つだと 思うが、そのデモ版(60日間限定使用)はすでにSGIのサイト(http://www.sgi.com/Products/Evaluation/cosmo.code/)から 入手可能である。ただし、わたしの場合、何度か試みたがまだ テストに成功していない。サイズが大きいうえに、サイトが混 んでいてFTPにゴミが混入するのかもしれない。 しかし、Cosmo Createは、どの程度までGUI処理を貫徹して いるのだろう? その昔、スティーヴ・ジョブズが、コンピュ ータを使うために数理的なプログラムやコンパイルなんかで苦 労するのはアホだとして、NeXTのためにInterfaceBuilder (IB) を作ったが、Cosmo CreateもNeXT IBのようなやり方をしている のだろうか? そもそも、HotJavaの作り方は、基本のモジュー ル(オブジェクト)を用意しておいて、それでより高次のオブジ ェクトを作り、AppletでOSとリンクするという発想であり、NeXT IBと同じである。が、そうだとすると、期待はずれになるかもし れない。 NeXT IBは、一見よく出来ているように見えたが、趣味の域を 越えるインターフェースを作ろうと思うと、自動コンパイルで はダメで、直接C言語でプログラムを書かなければならなかった。 それに、これは、所詮は、インターフェースしか作れない。イ ンターフェースとは、つねに何かのためのインターフェースで あるから、それによって組み合わされる基本的なアプリケーシ ョンの機能を越えることはできない。NeXT IBの場合は、テキ スト、タイトル、ボタン、スイッチ、ラジオボタン、枠、カラ ー、スライダーといった基本的な機能をモジュール部品として 用意し、これらを組み合わせることによって新たなアプリケー ションを作るわけである。 95年に発表されたNeXTのWebObjectsは、ウェブベースのア プリケーションを簡単に作れるオブジェクトを提供するという ものだが、発想は、むろん、IB の延長線上にある。が、これも、 いまhttp://www.next.com/ からそのデモ版がFTPできる状態に なっているが、残念ながら、わたしのNeXT OSは、Version 3.2J なので、これをテストすることができない。3.3Jにヴァージョ ンアップしないのは、WebObjectsのためだけにン万円を出して ヴァージョンを0.1上げるのを惜しいと思ったからだ。 使ってみもしないであれこれ言うのは問題かもしれないが、 NeXT社のホームページでいくらWebテクノロジーへのNeXTの貢献 (最初のWWWはNeXTのブラウザ上で行なわれた)が強調され、そ の成果がWebObjectsなんだと言われても、誰もそれを使って、 たとえば Black NeXT上でNetscape が走ってしまうようなイン ターフェースを作らないところをみると、エンドユーザーやア ーティストにはあまり関係のないしろものではないかと独断的 に切ってしまいたくなるのである。おそらく、何百というNeXT ユーザーが同じ思いをいだいているだろう。 先日わたしは、知り合いのサム・ゴールドバーガー氏に、 〈Black NeXTはまだまだ十分現役で使えるマシーンだし、 NEXTSTEPもすばらしいOSなのに、唯一困るのは、Netscapeが使 えないために、いま日毎に質をたかめつつある WWWの可能性を エンジョイできないことだ〉とEメールした。彼は、Spherical Solutionsの社主であり、長らくBlack NeXTの熱烈な支持者で ある。1991年に NeXT 社がBlack NeXTの制作を中止したと き、彼は、せっせとBlack NeXTを買い集め、Black NeXTの愛好 者に安く提供した。また、1995年には、CPUのスピードが 25MHzのBlack NeXTを50MHzにするPyro Acceleratorという ボードを製作して899ドルで発売するなど、Black NeXTへの 依然衰えない情熱をつねに発信している。ちなみに、わたしの Black NeXTのクロックスピードは、たったの33MHz(Motorola 68040)だが、Dimensionボード(Intel i860 RISC, 33MHz)を積 んでいるせいか、コンパイルなどのときにはうんざりするが、 通信はむろんのこと、マルチメディアのプレゼンテーション素 材やホームページを作ったりするのにも、あまり「遅い」とい う感じはしない。 さて、例によって(いつ出しても)10数分後に返事が来る サムの返事は、予想した以上に悲観的なものだった。 「ぼくも君と同じフラストレーションを感じていることを告白 さざるをえない。ぼくには、ブラック・ハードウェアに関して この問題(Netscapeが使えないこと)をどう解決したらよいの かわからない。ぼく自身は、安いMacintoshを買って解決しよう としたけれど、全然満足すべきものではなかった」。 NeXTユーザー会 NeXusの花原良宏氏によると、「Netscape 社はメジャーな ( 儲かる ) プラットフォーム以外には出さな いといっているらしい・・・・、 Netscape 社はマイクロソフ トをけなすわりには、Windowsの上で動く商品をつくっていたり するので、冷静に考えると、(正しくて賢くい選択なのかもしれ ないけど)ずっこい会社です」という。まあ、Netscaope社にす れば、いまどき25MHzや33MHzのマシーンなど相手にしてい られないのだろうが、だからこそ、ユーザー側からもう少しア クションがあってもよいと思うのだが、内外のNeXT関係の NetNewsをのぞいても、この問題への関心は薄いのである。 この点、いまノリのノっているのは、SGIである。昨年 HotJavaのブラウザが一般に公開され、HotJavaの試作例が発表 されたとき、それは当然SUN Microsystemsから出てきたわけだ が、いま、HotJavaの魅力的なサンプルを見ようとおもったら、 SGIのサイト(たとえばhttp://www.sgi.com/Fun/free/java-apps .html)をのぞいてみるに限る。あの――グレーの無地のバック の上を善良そうな笑顔の頭がバカみたいにただポンポン踊るだ けというようなサンプルを見てHotJavaの可能性にあまり期待を しなかった者も、このサイトの――たとえば、水墨画のような 景色がじわじわと横から形をなしていくFractal Landscapeとか の例を目の当たりにすると、HotJavaは確実に今後のホームペー ジ・デザインを変えるだとうということが予感できるだろう。 すでに、Nirvanet (http://nirvanet.com/)のフロントページの ように、さりげなくJava言語を使った美しいホームページも登 場している。このホームページ、最初見たとき、わたしは、 Netscapeのダイナミック・ドキュメントでも使っているのかと思 った。承知のように、HTMLファイルに、という行を書き込むと、 この場合なら、xxx.htmlというファイルを n秒後にリロードす るようにできる。1秒以下は無理だが、この技法でパラパラアニ メを作ることができるし、画像の一部を動かすこともできる。 Nirvanetのフロントページの画像は、丁度、太い角材を積み上 げて火をつけたようなデザインで、大文字焼きの火のような色を してゆらぐその一本一本の横バーをよく見ると、ほのうのゆらぎ がピークに達すととき、「インターネットは我らのものである」 という日本語文字がかすかに浮かびあがるようになっている。 SGIといえば、VRMLも、目下のところ、SGIが俄然リードしてい る。Windows95も、Black Sun (http://www.blacksun.com) のフリ ー・ブラウザ、CyberGateのように、出来のよいものが出はじめて いる(この点で、Macはちょっとコケにされている感があるのは残 念だ)が、実用になる完成されたVRMLブラウザとしては、SGIの WebSpace が群を抜いている。 たとえば、サンタ・モニカのエレクトロニックス・カフェ・イ ンターネショナルなどともおもしろいコラボレイションをやって いるサイバー・タウンのサイト(http://www.cybertown.com/) を 見ると、このサイトで出されているVRML作品の多くはVirtius Walkthrough Proで作られているのだが、その臨場感は、Virtius Walkthrough VRMLよりもCyberGate、そしてそれらよりもWebSpace においてよりすぐれたものになっているのである。 CyberTownのサイトには、3D Virtual Reality apartmentとい うVRMLアパートがあり、そこに誰でもが住めるようになっている。 ここでは、「住む」とは、いくつかのオプションがあるアパート ・空間にリンクを張るということであるが、部屋に入ってその空 間のどこかをクリックすれば、あらかじめ登録した場所に飛んで いけることになる。 VRMLは、いままさに2.0が完成されたばかりであり、今後ますま す面白くなっていくだろう。VRML 2.0についてはいずれ詳述した いが、ちなみにhttp://webspace.sgi.com/moving-worlds/spec/ concepts.htmlやhttp://product.info.apple.com/qd3d/VRML20/ Out_Of_This_World.HTMLで1.0 ヴァージョンとの変更点を知る ことができる。