2001-03-09/粉川哲夫
 

3年続けたこの連載も、今回で終わりだ。「ラプソディ」というタイトルは、わたしがアキバを歩く気分とリズムを言いあらわしているような気がしてつけた。どの街にも独特のリズムがあり、そのリズムは、遊歩するこちらと、出会う人や物との関係でつくられる。そして、その人や物は、時代とともに変わる。
2001年のいま、わたしはあいかわらずラプソディ風にアキバを遊歩しているが、当然、人も物も変わった。その変化の観察が毎号のエッセーに反映されていたはずだが、思うに、アキバは、すくなくとも「電気街」であるかぎり、人も物も基本においては変わらないような気がする。いま、コンピュータ機器のジャンクがあふれているが、それは、1950年代のアキバにわたしの記憶をワープさせる。あのころのジャンク屋には、とんでもないものがあり、アキバを歩くということが驚きの時間だった。それが、次第に衰退し、新品だらけになった。しかし、それが、いま、逆転している。
先日、中央通りを歩いていたら、ガラクタだらけの棚のまえに何とNeXTのキーボード(新品)が並んでいた。NeXTの本体や周辺機器は、数年まえにリース切れ製品が出まわったことがあったが、たちまち姿を消した。だから、新品など、あるだけでも貴重である。わたしがすぐに買ったことはいうまでもない。6500円なら安いものだし、わたしは、いまも、原稿を(まさにこの原稿も)NeXTで書いているので、キーボードが壊れたら、大変なのだ。原稿だけではない、メールも、ネットのメンテもほとんどNeXTdimensionの画面からやっている。アメリカには中古のNeXT製品を頑固に通信販売しているサム・ゴールドバーグという人がいるが、新品はめったに手に入らない。きくところでは、この新品は、かつて日本の総販売元だったキャノン販売の「廃品」らしい。こうなると「廃品」よ、もっと出でよである。家電製品に関しては、メーカが中古の回収を義務づけられるというから、今後は、ますます、「廃品」ルートのコンピュータ・ジャンクがアキバをにぎわすことになるだろう。
この3年間アキバをラプソディ風に遊歩しながら購入した物たちは、たしかに、アナログ系よりもデジタル系のものが多かった。要するにコンピュータ関係だ。おかげで、数千円のジャンクPCを再生するテクニックとか、中央通りの路上で「露店」を開いているおばさんから数百円で買った旧いISAのカードを認識させる方法とか、1万円でIndyの環境を作るとか、いうようなことには習熟した。しかし、ソフトの面でそれに見合ったテクニックを身につけたかというとそうではない。ハードに時間を取られた分、そっちが手薄になってしまった。
最近、そのツケを払わされる事件が起きた。安いのをいいことに、HTTP用とストリーミング用とを2台ともIndyにしたのはよかったが、それらが、同時にハックされてしまったのだ。去年は、単純なDOSattackで、これは、sendmailのスキをつかれたためだったので、その後sendmailは殺し、多くのあぶないプロセスを止めた。が、そんなことをあざ笑うかのように、なんと、ストリーミング・サーバーをDHCPサーバーとして立ち上げ直し、堂々と表から侵入するという巧みな手口だ。むろん、こちらは、ちゃんとdhcpdなど起動しないように設定したあった。
ニクイことに、敵は、トップページにポルノを貼るなんてダサいことはしなかった。それよりも、ウェブサーバーのなかにpeste666という新しいユーザを作り、それからルート特権を獲得し、リモートからのtelnetとftpを出来ないようにした。蜘蛛にからめとられた獲物である。peste666というのは、調べてみると、Military-Vehiclesという軍用車マニアたちのメーリングリストで1997年にさかんに投稿したのち、忽然と消えてしまったメンバーのユーザ名である。むろん、当人がその名でハッキングをやるわけはないが、何か関係があるのかもしれない。そして、同じ手口で侵入したもうひとつのストリーミング・サーバーには、gideonというユーザーを作っていたが、これは、有名なネットワーク・セキュリティ会社のウェブサイトのサーバー名である。完全にからかわれてしまった。
ハックされたハードディスクの中を調べれば調べるほど、奥が深く、怒るよりも、感心させられ、尊敬心さえおぼえてくる。こうなると、アートだ。そろそろハッキングも、1980年代にピークに達した、グラフィティやスクウォッティング(空家占拠)と同質のレベルに達しはじめたのかもしれない。この機会に、アキバをうろつくのを少し控えて、ハッキングのことをじっくり考えてみようと思う。バイ・ナウ。

(ラジオライフ編集部 村中宣彦)