2001-02-08/粉川哲夫
 

アキバへは毎週最低1、2度は身体を運ぶ「肉体派」のわたしだが、そのわたしにしても、今後は、アキバへの行き方が変わりそうである。
先日、ADSLのスプリッタ+モデムの後ろにつけるブロードバンドルータを買おうと思い、まずはアキバへと腰をあげかかって、もう一度パソコンのまえにすわりなおした。ネットで検索してからにしようと思ったのである。ネットワーク関係の機器なら思い当たるショップがいくつかあるが、ブロードバンド・ルータを置いているかどうかは確信がない。まして、どこが安いかは見当がつかない。
はたして、「ブロードバンドルータ ADSL 秋葉原」と打ち込むと、ただちに数件のショップのサイトが表示された。値段と品揃えでは、中央通りの愛三電気が群を抜いている。が、これは、あくまでも検索されたサイトの情報のなかだけの話であって、ウエブに情報を流していないショップもあるはずだから、アキバの客観的な情報ではない。
これで、ふと思ったのだが、アキバにかぎらず、これからの都市は、ネットと連動した形で活気づいたり、衰退したりするだろう。すでに、渋谷は、テレビと連動して動いているが、インターネットは、テレビよりも詳細かつ大規模に都市の動きとシンクロし、次第に街そのもの雰囲気や活気を左右することができるからである。
ブロードバンドが普及すればなおさらのこと、いまでも、やろうと思えば、街角にビデオカメラを置き、その映像と音を24時間ストリーミングで流しっぱなしにすることは簡単である。すでに、かつての静止画のウェブカムにかわって、街を俯瞰する動画のウエブカムのサイトがあるけれども、そうした映像で、もし、暴動だとか、街をあげての祝祭のシーンを見たら、わたしのように好奇心の強い者でなくても、行ってみたくなることは確実である。
いま、映画や演劇に行く場合、いきなり劇場に行くひとは少ない。ネットや情報誌でてから出かけるのが普通だ。その結果、メディアの影響が観客の数を左右するようになった。つまらない映画でも、テレビでくり返し予告編を見せられ、ついつい劇場におもむいてしまう客も多い。
いずれ、各都市は、インターネットのなかにヴァーチャルな都市スペースをつくるようになるだろう。そのスペースを歩きまわり、商店や劇場に入って、商品(の映像)をチェックしたり、映画の予告編を見たりするわけだが、こうした状況が進むにつれて、そのヴァーチャル・スペースが超面白いからといって、生身の身体を現場に運んでみたら、それほどでもないということも起こるようになる。が、ここでサイバースペースと「現実」との乖離というようなことを嘆いてみてもしかたがない。むしろ、サイバースペースもさまざまな「現実」のなかのひとつにすぎないと考えるべきだし、そうなっていくはずだ。
その場合、サイバースペースと他の「現実」との関係を繊細にとらえるかどうかで差が出てくる。東は東、西は西みたいな投げやりなとらえかたをしているところは、サイバースペースと身体スペースとの相関関係を入念に考えないから、両者がからみあって、相乗効果を増すようなこともない。
さて、問題のアキバだが、ネットで愛三電機がよいという情報を得て1週間たっても、わたしは、その店に行かずにいる。アキバはまだ、その身体スペースの活気に見合ったサイバースペースを持ってはいない。そのため、両スペースは、まだ平行関係にとどまっており、たまたまサイトを持っているショップは目立つが、そうでないショップは数かぎりなくあるというのが現状である。それを覚悟で、ネットに登場するショップだけを訪ねてみるのも、もうひとつのアキバ探訪の方法として面白いとも言えるが、ネットのなかのアキバは、まだ、ネットのなかの他の都市とくらべてきわだっているとはいえない。
傾向として、もう、都市の相貌をすっかり変えてしまうような都市改造の時代ではなくなった。物理的な都市の形態はそのままにしておいて、それと連動したサイバースペースのほうでうんと冒険をする。これが、21世紀の「都市計画」と都市活性化のトレンドである。サイバースペースが面白ければ、その「モデル」のほうにもひとが集まる。たとえ乖離があるとしても、ひとは、次第に、サイバースペースを基準に「現実」をとらえなおすようになる。
幸か不幸か、アキバは、まだそこまではいっていないので、昨日わたしは、サイバースペースを無視した肉体的遊歩を楽しみ、愛三電機のまえを素通りして、ジャンク通りに入った。そして、まえに書いたときよりもさらに安くなったジャンクのPCを物色しながら、ブロードバンドルータに3万払うなら、イーサカード2枚込みで5000円以下の中古PCを買って、それにLinuxをインストールし、、ローカルルータを作ってしまおうと決心した。デジタルの世界にも、「手作り派」が生き延びる場はまだあるのだ。

(ラジオライフ編集部 村中宣彦)