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2010年 01月 08日
●パーキンソン病と「電車ごっこ」
「身体表現ワークショップ」という、東京経済大学でわたしがやりたい放題やっているゲスト講座の金曜編の最終日、世界的なベーシストの鈴木勲氏をゲストにむかえたのだが、「全員の年齢を全部足してもまだ足りない」といっしょに演奏した中村恵介(トランペット)さんが言った今年77歳になる鈴木氏は、まだ10代の井上銘(ギター)と石若俊(ドラムス)のふたりを相手に、全く容赦をしないスリリングな演奏をしてくれた。
この日、もう一つスリリングなことがあった。それは、旧友のA君が来てくれたことだ。彼は、5年ほどまえにパーキンソン病にかかり、それを不屈の努力で克服しつつある人だが、その不自由な体をおして、演奏を聴きにきてくれた。
わたしは、パーキンソン病について辞書的なことしか知らなかったのだが、彼と半日いるあいだに、多くのことを知った。決めた時間で食事をし、薬を飲まなければならない彼が何か食べ物を買いたいというので、生協にいっしょに行ったとき、彼が猛烈なスピードで歩くのが不思議だった。「どうしてそんなに速く歩くの?」ときくと、実は、それが病気であり、歩き出すと止まるのが大変なのだということだった。
では、「どういう風に歩くのが一番いいの?」と尋ねると、A君は、誰かの肩につかまって歩くことだと教えてくれた。「じゃあ、やってみよう」とわたしが言い、彼がわたしの肩につかまってキャンパスを歩きはじめた。なるほど、彼はスムーズに歩く。こちらが止まれば、止まることができる。すばらしい! わたしは感動した。肩を貸すだけで、パーキンソン病の人を助けることができるのだ。
そうして50メートルほどの距離を歩いていると、すれちがう学生が微妙に目をそらしているのがわかった。にやにやしながら通りすぎる者もいる。どうやら、わたしたちが、「電車ごっこ」のようなパフォーマンスをやっていると思ったらしい。すこしまえ、同じ場所で舞踏家の徳田ガンさんが宙を浮くような歩みのパフォーマンスをした。
リハから片付けが終わるまでつきあったA君と、国分寺までタクシーに乗り、いっしょに電車に乗った。構内でも「電車ごっこ」をやり、電車に乗ってから座席に着くまで同じ身振りを披露した。
不思議だったのは、わたしたちが空いた座席に進んで行くと、そばに座っていた人があわてて別の席に移ることだった。それは、座席をゆずるというよりも、何かヤバイものを見てしまったという気配なのである。向かいの席の人も、微妙に目をそらしている。別に怖いことはないのに。でも、われわれは、「危険物」だったのでしょうね。アナウンスでは、「危険物」についての注意がひんぱんにある。
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