「闇市」でのすったもんだ



●先日、知りあいから頼まれたPCをさがしていて、ジャンク通りのとあるビルの3階にあるFで買い得そうに見える「完成品」(新品)を見つけた。「ショップブランド」というやつである。 CPU Celeron 1.7GHz、マザーボード VIA P4X266 PE11-L、ビデオカード GeForce2 MX400 64MB、メモリー 128MB、HD 20GB、CD/DVDドライブという構成にWindows XP Homeがインストール済(OEMのCDが付属)。むろん、キーボードとマウスもつく。さらに「1年間保証付」。これで65,800円だから、買い得だと思っても無理はないだろう。

●現金を支払って5日後にマシーンは届いた。わたしがこれまで使っているどのマシーンよりもファンの音が静かだ。早速、知りあいの代わりにXPの認証作業をすませる。ネットへのアクセスも問題ない。そこで、CD-ROMドライバーをもう1つ増設してほしいという知りあいの頼みを満たそうとして作業を始めて、とんでもないことに気づいた。何と、空スロットにドライブを押し込もうとすると、マザーボードのメイン電源のコネクターが邪魔してちゃんと入らないのである。明らかに、マザーボードに合わないボックスに収納してしまった組立ミス。これってズブの素人が組み立てたのか、と思ったが、とにかく電話。すると、店で会った店長とおぼしき人いわく。「リード線を押し曲げてやれば入ります」。じょうだんではない。コネクターの白いプラスチックの部分は、ゆうに15ミリは飛び出しており、その上のケーブルを折り曲げても、CDドライブのボディをはばんでしまうことには変わりない。さんざん説明し、相手はようやく、別のケースに入れ直すことを約束。交換条件として、こちらが入れる予定のCDドイブを同梱するから、それをちゃんとインストールし、わたしの知りあいに直接送ってくれることを了解させた。

●それから1週間後、知りあいから連絡があり、なぜかわからないが、Internet Explorerを起動させていると、突然再起動しはじめるという。右上のX印をクリックし、IEを終了すると落ちるときもあるという。相手は素人であり、わたしを信頼して「完成品」を買ったわけだから、失望は大きかったようだ。「やっぱりメーカものを買ったほうがよかったのでは?」と言う。これは、マシーンの調子が悪いこと自体よりもわたしにはこたえた。マシーンの調子なんかは直せば直るが、こういう素人さんの思い込みをあらためさせるのは大変だからだ。わたしは、これまで、「どんなパソコンを買ったらいいでしょう?」と助言を求められた場合、パソコンにムダ金を使うなということを第1にしてきた。メーカのロゴが欲しければ、中古でいいし、メーカーものにこだわらなければ、自作か小店舗の注文生産品で十分メーカものと対抗できるし、実質的な機能があればいいというのらなら、1時代まえの中古をアップグレードすればいい。今回は、わたしが最高のスペックのものを自作して渡そうと思ったが、時間がないのと、トラブルがあったときのその人の反応を考えて「安全策」をとったつもりだった。が、状況は少し変わって来たようだ。これは、XPとの関係もあると思うが、素人が「注文生産品」を選ぶ場合は、EpsondirectやDELのほうが安全かもしれない。

●一応、わたしがトラブルを確認してからFにクレームをつけようと思い、まずわたしのところに送り返してもらった。数日後に届いたマシーンを起動させ、ストリーミングのラジオをかけながら、ときどきInternet Explorerでアクセスしたり、終了させたりしてみる。3時間ぐらいは何も起こらなかった。が、その後、問題の現象が出始めた。

「コンピュータの管理」の「イベントビューア」→「システム」→「エラー」で調べてみると、

ボリューム 'HarddiskVolume1' 上のファイル 'http---acw .. 16.ram.lnk' を処理中にシステムの復元フィルタに予期しないエラー '0xC0000040' が発生しました。ボリュームの監視を停止しています。


「コンピュータの管理」の「イベントビューア」→「アプリケーション」→「警告」では、

タイム プロバイダが使用可能なタイム スタンプを提供できていないため、 システム時刻を 49152 秒同期することができません。システム時刻の同期は とれていません。

COM+ イベント システムは、サブスクリプション {5A4EDCE7-2AF3-4503-8F18-C7AFC7B22DFD}-{00000000-0000-0000-0000-000000000000}-{00000000-0000-0000-0000-000000000000} で ConnectionMade メソッドでの開始に失敗しました。サブスクライバは HRESULT 80004001 を返しました.

詳細な情報は、http://go.microsoft.com/fwlink/events.asp の [ヘルプとサポート センター] を参照してください。

さらに、あとから入れたプログラムを全部削除してテストしようと思い、「プログラムの削除」を選ぶと、途中でフリーズするという現象も始まった。


●Fの店長のKにメールを送り、事情を伝える。翌日になっても返事が来ないので、電話すると、「検討してお返事する」と言う。翌日になっても返事がないので、また電話。「明日、結論をメールでお知らせします」と、なんか役所のような返事。こうして行き違いとKの休み、Fの休業日などがからんで、あっというまに1週間がたち、結論的に送り返して点検するということになった。

●大分印象を悪くしているわたしは、CDドライバーが入らないような素人くさい組立方をした点から推測して組み立て方とセットアップの仕方が悪いと思い、返品を要求した。しかし、電話でKは、「どこも悪くなくないです。そちらでCDドライブをインストールしたときにケーブルをつなぎまちがえていた」などという。じょうだんではない。ケーブルは、ケースを入れ換えるとき、向こうが取りつけたのだ。送り返すとき、もう返品しかないと思っていたので、そのCDドライブは取りはずしたが、そのあと向こうがつなぎ替えたとしても、わたしの責任ではない。やりあった末、新しいHDに再インストールして送ってくることになった。やりあった理由は、返品を要求しているくらいなのに、再インストールした場合、認証の手続きを電話でやらなければならないからだ。ベアボーンのキットを買ったのなら、トラブルがあってもこちらの責任にせざるをえないことが多いが、これは、ベアボーンではなくて、「完成品」なのだ。なんでそんな苦労をしなければならないのか? しかも、向こうが教えたマイクロソフトの電話に念のためまえもって電話してみると、それは、再認証のためのセクションではなかった。正しくは、24時間オープンのフリーダイヤル0120-801-734で、ここが「ライセンス認証専用窓口」なのだった。こんなことも知らない相手が作った製品なのかと思い、さらに不信感が高まった。

●数日後、届いたマシーンを同じようにテストする。が、全く同じ現象が出るではないか! こういう場合、電源とメモリーを疑ってみる必要があるということをきいたことがあるが、電源は、VAN V-Tech VT-300BA-Tで、一応「Pentium 4 OK」というやつ。メモリーは十分ではないが、まだロクなアプリケーションを入れてはいないので、落ちるというほど足りなくはないだろう。それに、「完成品」を買ったのに、しかも知りあいの信頼を失いながら、余計な作業をする筋合いがないという思いがエスカレートし、自分であれこれテストする気が起きない。普通なら(というのは、たとえばT-Zoneとかビッグカメラとかの「大きい」店なら)即返品→換金でしょう。

●ログを送りつけたので、今回は、言い訳しなかったが、それでも(「店長」なのに)「技術と相談してお返事する」の一点張り。そして、しばらくして届いたメールで、マザーボードを別メーカのものと交換するので、ついては、「こちら」が差し向ける運送会社に渡してほしいという。運送会社が来るのか、大分変わったなと思ったら、これには魂胆があることがあとでわかる。しかし、こちらは返品を要求しているのに、それを全くきかず、今度はマザーボードだというやりかたに腹が立った。とにかく、CDドライブの入らないケースを使ってしまうという(それで50台も納入したいるというのだから、一体ユーザーは何をしているのかと言いたい)というド素人がいくらやっても無理だ、はたしてBiosの設定なんか出来るのかい、という思いが強く、ますます腹が立ってくる。が、いずれにしても返さないことには、何も始まらないので、翌日来た佐川急便に品物を渡す。もうこれで梱包を2度もやっているのだ。

●例によって、返事がないので、電話すると、今度は、Windows XP Homeのバグらしいので、いまマイクロソフトの代理店と交渉しているので、もう少し待ってくれという。こちらは、早くこういうタチの悪い相手と縁を切り、パソコンを待っている知りあいのために別のマシーンを探さなければならないのだが、これでは、最悪の場合、このマシーンを使わされるということもありえるので、動きが取れない。それが、一番アタマに来る。Kは、個人的には、感じのいい人に見えたが、重要なことになるとまるで決定権がないような態度になるのはなぜか? 「技術の者」とか「会計」とか、まるで大組織のような言い方。そんなに奥の深いバックでもあるのか? Fは、日本語で「要塞」を意味する英語だが、要塞って、何のための要塞なのか? 何を何のために、誰のために守る「要塞」なのか?

●数日後、あきらめたのか、返金するので口座を知らせろというメールが来た。しかし、いつ返金するとは書いていない。わたしは、海外にいたとき、ほとんどペテン師に近い商売人と渡りあってきたので、この程度のいいかげんさには驚かないが、アキバは、近年、急速に「国際化」している。それは、わたしとしては、歓迎すべき傾向で、ペテン師でもサギ師でも跳梁跋扈できるような街こそが「成熟」した街だと思っている。が、それだからこそ、こちらの対応も、半端には出来ない。そこで、いつ送金できるのかを伝えるようにメールで依頼する。

●またしても梨のつぶてなので、電話すると、「会計と打ち合わせているので」待ってほしいという応え。「こちらの支払い日が2日と22日になっているので」2週間ぐらい先になるだろうとのこと。こちらは、Fに商品を売ったわけではないから、支払い日もくそもないだろう。しかし、相手は、「ルールは守りたいので」という。え、ルールって、そっちが勝手に決めたルールであって、こちらには関係がないだろう?! そちらがギブアップしておいて、支払日だけを延ばす(しかも正確にはいつ支払うかわからない)のは、人を馬鹿にしている。

●数日後(もう買った日から1ケ月も経ってしまった)、「23日に送金させていただきます」というメールをもらったが、わたしの気持ちは治まらない。状況説明もなく、電話で言っていたことを綜合すると、XPのバグでマイクロソフトの代理店が弁償してくれたとのことだが、マザーボードがどうのこうのという話もちらりとした。もし、そういうトラブルなら補償が出たはずだから、こちらに返金したとしても、損はしないのではないか?

●アキバの店は、ある日突然消えてしまうということも最近はある。支払いまであと2週間もあるとすると、その間にそういう可能性もないわけではない。そうしたら、くやしいではないか。ニューヨークあたりなら、メールで言って来た支払い日など信用できない。それは、Fという会社は、その実態がわからないから、7万+を丸損するということもありえるだろう。

●ふとひらめいたことがあった。最終的に荷物を返したとき、むこうは、佐川急便を差し向けてきた。それまで、こちらがわざわざ宅急便に渡していたのに、急に向こうが取りに来るというので、「どうしてですか?」と訊くと、Kが、「着荷不良で補償を請求しますから」とぽろりと言ったのだ。「だって、着荷不良なんかじゃないでしょう。物理的な問題なら、すぐわかりますよ」とわたしが言うと、一応審査を受けるだけだと相手は言った。その後、「着荷不良の方はどうなりました?と訊くと、「いや、申請を取り止めましたよ」との答。「そうでしょう、そんなことをしたら保険金詐欺ですね」とわたしは嫌みを言った。

●しかし、保険は取ったのではないか? そこで、わたしは、知りあいを通して、佐川急便で、Fが着荷不良の申請をしたかどうか、そして補償の方はどうなったかを調べることにした。わたしは、色々なところに知りあいがいる。結果はすぐにわかった。すでにFは、「マザーボードと周辺機器の故障」ということで保証金を受け取っているという。やはり、詐欺をやっているのではないか! いまの日本では、こういうのはあたりまえなのかもしれない。運送会社も、保険会社からもらえばいいから、いちいち細かなことは調べず、申請者が言ってきた書類にハンコを押すだけで通してしまう。とすれば、PCのように本当のところどこが悪いのか簡単には結論を出しにくい商品は、ケチが付けばモウケだということになる。

●「あなた、佐川からちゃんと金をもらってるじゃない。マイクロソフトからももらったのなら、そういう〈補償金〉だけでも、こちらの返品代金をカバーできるでしょう?」
絶句する相手。明らかにうろたえてはいたが、したたかなことに、「調べまして、30分以内に電話します」という答。佐川には、K氏の名で損害賠償の請求が出ていることがわかっている。一体何を調べるというのか!? 当然のことながら、15分後に電話してきたKは、「申し訳ない」をくり返し、その日に、ATMで返金してきたのであった。「アキバ50年男」をバカにしてはいけない。いまのアキバのこの手の店では換金などしないのが常識だとしても、わたしは、そんな常識は知らない。

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