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一九八五年度外国映画ベストテン

【外国映画ベストテン】
①リキッド・スカイ②ビデオドローム③ミツバチのささやき④そして船は行く⑤蜂の巣⑥タリー・ブラウン、ニューヨーク⑦ル・バル⑧ブロードウェイのダニー・ローズ⑨ハメット⑩三人の女
【ワースト】
①ランボー/怒りの脱出②西太后③コットンクラブ④プレイス・イン・ザ・ハート⑤ネバーエンディング・ストーリー
 八五年度のベスト10を選ぶのは例年よりもいささか苦しかった。批評の座標を少し変えればいく組ものベスト10を選び出すことができるほど印象深い作品が多かった。
 外国映画の流入が活発になる時代は、変革の時代の前夜である。六〇年代の前半期がそうだった。ただし、これからの〈変革の時代〉は、六八年へ向けてすべてが勢いよく収斂してゆくというような動き方はしないだろう。それよりも、さまざまなミクロな部分でそれぞれちがった変化が同時に起こっていくはずだ。映画も、一人のゴダールとその仲間たちによってよりも、むしろ無数の小さなゴダールたちによって活気づくだろう。
 フランコ以後のスペイン映画が紹介されたのは喜ばしいことだった。
 ビクトル・エリセの『エル・スール —南—』と『ミツバチのささやき』は、スペイン映画の底力をひしひしと感じさせたし、スタジオ200で公開された?噤w蜂の巣』』A『エピローグ』、『スティコ』?宸ヘ、いずれも、鋭い政治意識と独自の映画美学とが〈眼の快楽〉を誘った。
 アメリカの映画のあいもかわらぬブロックバスターものにまじって、マイナー路線の『シルクウッド』、噬Aンダー・ファイア』、嚴O人の女』、噬潟Lッド・スカイ』、噬uロードウェイのダニー・ローズ』、噬nメット』が光っていたが、もっとマイナーな『タリー・ブラウン、ニューヨーク』と『バスケットケース』は、どちらもニューヨークを使い、メイジャー映画にはマネのできない味を出していた。前者で怪優ディヴァインがちらりと素顔を見せていたのもおもしろかった。ヒット作では、『2010年』や『ランボー』、噬oック・トゥ・ザ・フューチャー』なんかより、暗にヒッピー文化とジェントリフィケイションを痛烈に批判している『ビバリー・ヒルズ・コップ』がよかった。なお、ニカラグア革命をあつかった『アンダー・ファイア』で、野球の選手がゲリラに頼まれて手榴弾を投げるシーンは、ひどく胸をうった。
 イタリアとフランスのものでは、わたしは『そして船は行く』に一番感動したが、フェリーニにご執心の人ほどこの映画に批判的なのは意外だった。フェリーニは、自ら示唆しているように、『女の都』を撮るなかで、自分がそれまで無意識に追求してきた方向をはっきりとつかんだのだと思う。とくに、女性の撮り方が非常に〈政治的〉になった。
『ル・バル』も、『そして船は行く』に劣らず〈政治的〉な映画であるが、フェリーニの方がスコーラよりも、政治のミクロ・レベルに敏感であるように見える。その点、アメリカの映画にミクロ・ポリティクスを見出すのはむずかしい。
 ミクロ・ポリティクスのレベルをもっと徹底して追求している点ではビクトル・エリセが最高だが、ベルトラン・タヴェルニエの『田舎の日曜日』も、光子(日光)と分子(身体)とのたわむれをフィルムに定着する卓越した技術を通じて、映画が関わりうる最もオーセンティックな政治のレベルを開示していた。
[リキッド・スカイ]前出[ビデオドローム]前出[ミツバチのささやき]前出[そして船は行く]前出[蜂の巣]前出[タリー・ブラウン、ニューヨーク]前出[ル・バル]監督・脚本=エットーレ・スコラ/出演=ジュヌビエーブ・レイ・ペシュナン、レジ・ブーケ他/83年仏・伊[ブロードウェイのダニー・ローズ]前出[ハメット]監督=ヴィム・ヴェンダース/脚本=ロス・トーマス、デニス・オフレアティ/出演=フレデリック・フォレスト、ピーター・ボイル他/82年米[三人の女]前出[ランボー/怒りの脱出]前出[西太后]監督=リー・ハンシャン/出演=リュ・シャオチン、リャン・ジャンホー他/84年中国[コットンクラブ]監督=フランシス・F・コッポラ/脚本=フランシス・F・コッポラ、ウィリアム・ケネディ/出演=リチャード・ギア、ダイアン・レイン他/84年米[プレイス・イン・ザ・ハート]監督・脚本=ロバート・ベントン/出演=サリー・フィールド、リンゼイ・クローズ他/84年米[ネバーエンディング・ストーリー]前出◎85/12/21『映画芸術』




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